「100兆円のシニア市場」で市場を見誤ってはいけない

国内動向

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第136回

よく「100兆円のシニア市場」と喧伝されることが多い。100兆円という数値はわかりやすく、市場の巨大さのイメージを作りやすい。

かつて、マルチメディア市場の予測で123兆円という数値が喧伝されたが、これも同様だ。こうした数値は多くの場合、民間シンクタンクが作る数値である。

しかし、ビジネスの現場では、このような大雑把な数値に惑わされることなく、ターゲットとするシニア消費者一人当りが、どの費目にどれだけの購買力があるかをきちんと把握すべきだ。

「シニア世帯=60歳以上」とすると消費の実態を見誤る

シニア消費と言う場合、いったい対象の費目が何で、ひと月にいくら消費されているのだろうか。

「家計調査報告」平成28年(2016年)に世帯主の年齢階級別の世帯当たり月間平均消費支出(総世帯)の数値がある。この数値の50~59歳の世帯とシニア世帯(60歳以上の世帯)のものを比較すると、費目別の支出金額が異なることがよくわかる。

たとえば、世帯主の年齢階級が50~59歳の世帯の月間支出平均が29万6,286円なのに対して、60~69歳の世帯では24万7,526円、70歳以上の世帯では20万2,563円と年代が上がると共に減っていく。シニア世帯と一口に言っても、60歳代と70歳以上とでは月4万4,963円も支出額が違う。

このように「シニア世帯=60歳以上」などと一括りにしてしまうと、消費の実態を見誤ることがわかる。

小売業などでは長い間、「ファミリー層=54歳以下」というセグメンテーションが一般的だったので、「シニア=55歳以上」などという括りで市場を分析する例が多く見られた。しかし、これだとさらに市場を見誤ってしまうので注意が必要だ。

年代が上がるとほとんどの費目で支出金額が減る

また、年代が上がるにつれてほとんどの費目で支出金額が減る。例えば、教育費は50~59歳の世帯では月1万7,558円かかっていたが、60~69歳の世帯では1,101円、70歳以上の世帯では332円と激減している。この理由は、世帯主60代以上の世帯では子育てが終了したところがほとんどだからだ。

さらに、食費が減っているのは、家族の数が減ったことと、食事の量自体が減ったことが理由だ。また、被服・履物費が減っているのは、家族の数の減少に加えて、世帯主本人が退職したことによる。特に退職後の男性はスーツやシャツ、ネクタイ、革靴などがほとんど必要なくなり、現役時に比べて買わなくなるためだ。

一方、金額的にあまり変わっていないのは、光熱・水道費、家具・家事用品である。これらは同じ家に住み続けていれば、年代にあまり影響しないからだ。

面白いのは、年代が上がるにしたがって、支出全体に対する教養・娯楽費の割合はむしろ微増していることだ。定年退職後には自由時間が増え、仕事以外の趣味にお金をかけるからだろう。

金額でも割合でも増えるのは保健医療費

他方、金額でも割合でも増えているのは保健医療費である。50~59歳の世帯では月1万6,376円で支出全体の3.5%だったのが、70歳以上の世帯では月1万2,265円で支出全体の6.1%にまで増えている。加齢による身体機能の変化に伴って健康維持や医療・介護のための支出が増えるためだ。

シニア向けに商品・サービス提供を考えている人は、年代による消費支出の違いに加えて、こうした支出費目ごとの数値を頭に入れておくと役に立つ。

たとえば、食費で見ると、60代ではひと月を30日とすれば、1日当たり2,303円の出費となり、平均世帯人数が2.47なので、932円/日・人となる。こうした数値を知っておくと、シニアに売れそうな価格帯のイメージも湧きやすくなるだろう。

もちろん、これまでの話は平均値ベースなので、個々の消費者の実際の支出額と異なることは十分にあり得る。ただ、シニア消費100兆円という大雑把なイメージより、こうしたミクロな数値をもとにするほうが、はるかに現実感のある商品開発・販売戦略を構築できるはずだ。

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