すぐそこに来ている「未来型医療」の実現

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第142回

東北メディカル・メガバンク機構と未来型医療

2011年3月11日に起きた東日本大震災で東北地方は大きな損害を受けた。その創造的復興の実現に向けて、東北大学に「東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)」が設立された。

この機構が目指すのは最先端の「未来型医療」。その代表例は「個別化医療」と「個別化予防」だ。

個別化医療(Personalized Medicine)とは、その人の遺伝子を検査し、その情報から正確に診断して、その人に最も適した治療法を選択して行うことだ。

また、個別化予防(Personalized Healthcare)とは、その人の遺伝子の検査により遺伝因子を調べるとともに、健康診断等により環境因子も調べ、将来の病気のリスクを予測して健康な時から生活習慣を改善し、病気を予防するものだ。

ゲノム情報の解析とデータ活用がカギ

ここでカギとなるのは、ヒトの「ゲノム情報」の解析とそのデータ活用である。ゲノムとは、遺伝子(gene)と染色体(chromosome)から合成されたドイツ語由来の言葉で、DNAのすべての遺伝情報のことだ。

ヒト一人のゲノムは30億(3×10の9乗)という膨大な数の塩基対が2本で構成される。そして、個人どうし、例えばAさんとBさんとでは、300万(3×10の6乗)の塩基対が異なっている(これを変異という)と推定されている。

つまり、AさんとBさんとでは見た目は全く異なっても、互いに全ゲノムのわずか0.1%が異なっているだけなのだ。また、一つの人種内では全ゲノムの約2%の変異があると推定されている。

重要なのは、これらの遺伝子変異が個人の体質や病気のなりやすさを規定していることだ。したがって、健康な人のゲノム情報バンクを構築し、これをリファレンスにして病気の人のゲノムがどう異なっているのかを分析することで、ゲノム情報と特定の病気との関連がわかるようになる。

1万円で人の全ゲノム解読が可能になった

しかし、先述の通りゲノム情報と言うのは膨大だ。これまでヒト一人の全ゲノムを解読するのに10万円から20万円程度の費用がかかった。

ところが、ToMMoの機構長で本機構立ち上げの立役者である山本雅之教授によれば、ToMMoが独自に開発した手法を使うと、何と一人1万円で可能とのことだ。

可能な理由は、ToMMoが日本人に特化した地域住民8万人+三世代7万人、計15万人のゲノム情報と健康情報のデータベースを持つ世界でもトップクラスのバイオバンクを構築できたことにある。

例えば、健康診断の際に脳ドックを追加で頼む場合、自費だと数万円かかる。これに対して、現時点でもわずか1万円で膨大な数の自分の全ゲノム情報が解読できるのだ。これは革命的と言えよう。個別化予防のような未来型医療は、はるか遠い未来ではなく、実はかなり近い未来に実現できる段階まで来ているのだ。

個別化予防のインパクトとは?

これが実用化された時には、誰もが自分の全ゲノム情報と健康情報から自分の身体がどんな病気にどの位の確率でなりやすいのかのリスクがわかるようになる。

そして、それがわかれば、かなり早い(若い)段階から生活習慣を変えたり、先行的に薬を使ったりすることで、重い病気を予防できるようになるのだ。

自分の生活習慣を続けることによって、自分がどんな病気にかかりやすいのかを知るタイミングは、現状では「実際に病気になった時」である。例えば、自分ががんになって初めてがんになるとはどういう痛みや苦しみがあるのかを実感し、何とか治したいと強く思うようになる。

しかし、本来はこうした状態になる以前の、もっと早い段階で「自分は将来がんになりやすい」ことがわかり、そうならないための予防策を施せれば、その方がはるかによいはずだ。個別化予防が実用化すれば、実際に病気にならなくても、どんな病気にいつ頃なりそうかがわかるのだ。

SAC東京は極めて効率的で高密度の情報収集の場

実はこの話は先日開催された東北大学スマート-エイジング・カレッジ(SAC)東京で、山本教授に講師を務めて頂いた際にお聴きした内容だ。

やや手前味噌だが、67社が参加するSAC東京では、生命科学の様々な分野の第一人者から最先端の情報を得ることができる。先行き不透明な時代に、企業経営者がこれからの事業の方向性を定めるために極めて効率的で高密度の情報収集の場と言えよう。

東北大学スマート-エイジング・カレッジ(SAC)東京
シルバー産業新聞社

あわせて読みたい関連記事

タグ


このページの先頭へ

イメージ画像