スマートシニア・ビジネスレビュー 20121210Vol.186

図表シニアシフトは経済の活性化と国家財政の改善に寄与する

 

いま進行中の「企業活動のシニアシフト」は、単に企業や消費者であるシニアがメリットを享受するだけにとどまらない。経済の活性化と国家財政の改善に寄与するのだ。

 

2012年8月10日に消費税増税を柱とする社会保障・税一体改革関連法が参院本会議で採決され、民主、自民、公明3党などの賛成多数で可決、成立した。現行5%の消費税率は2014年4月に8%、2015年10月には10%へ2段階で引き上げられることになった。2015年10月に、現状に比べて消費税は5%のアップとなる。

 

ちなみに、この5%分は金額にすると年間13兆5000億円。このうち、約4%の10兆8000億円を社会保障費に回すことになっている。ところが、この分だけ毎年度の国債発行は減らせるが、新たに年金や医療介護費に回せる分はない。残る約1%分の2兆7000億円は、子育て支援などの社会保障の充実に回すことになっている。

 

しかし、2012年度の一般会計90兆3339億円のうち、社会保障費は26兆3901億円にものぼる。消費税を10%まで増税しても、焼け石に水なのが実態だ。しかも、増税により、生活が一段と厳しくなるという心理面でのマイナス効果で、一段と財布の紐が固くなり、消費が落ち込む可能性もある。

 

つまり、税率をアップして増収を見込んだのに、消費が減って見込んだとおりの税収すら得られなくなる恐れもあるのだ。

 

したがって、本来必要なことは、①社会保障費の膨張を抑えること、②消費税増税に頼らない税収増の方法を模索することである。

 

①については、「もらいすぎ」状態の年金水準を是正すること、医療・介護制度を効率化させて給付の拡大を抑制すること、生活保護の支給条件を厳格にする、などが必要だ。

一方②は、企業活動のシニアシフトである程度貢献可能と思われる。総務省統計局による「家計調査報告」平成22年(2010年)によれば、1世帯当たり正味金融資産(貯蓄から負債を引いたもの)の平均値は、60代で2093万円、70歳以上で2145万円。

  一方、厚生労働省「国民生活基礎調査」平成22年(2010年)によれば、世帯数は60代で1083・6万世帯、70歳以上で1191・1万世帯である。これらより、60歳以上の人の正味金融資産の合計は、482兆2884億円となる。

 

意外に知られていない、個人金融資産1400兆円の中身

 

ちなみに、この「家計調査報告」のデータをもとに算出すると、すべての年齢階級の貯蓄の総額は796兆7383億円となる。

 

よく新聞などで「日本の個人金融資産は1400兆円」などと言われるが、この数値に比べると小さい感じがする。1400兆円という数値は、日銀の資金循環勘定の数値を引用したものである。実は、この1400兆円のなかには負債残高が含まれていないことはあまり知られていない。

 

さらに、この数値には、①企業年金等に関する年金準備金、預け金(ゴルフ場預託金など)、未収金(預貯金の経過利子など)といった、一般に個人が必ずしも金融資産として認識しないようなものが含まれているほか、②個人事業主(資金循環勘定では家計部門に含まれる)の保有する事業性の決済資金などの資産も含まれている。

 

個人金融資産に、これらの①②が含まれるのは金融分類的には理解できるが、一般庶民の感覚からすると「個人金融資産」という言葉から受けるイメージとはかなりの乖離がある。新聞等で引用されるこうした数値は独り歩きする傾向があるので注意が必要だ。

 

シニア資産30%の消費は、国家予算1・6倍分のインパクト

 

さて、60歳以上の人が保有する正味金融資産合計482兆2884億円のうち、仮に正味金融資産合計の3割、144兆6865億円が消費支出に回ったとすると、消費税率を5%に据え置いた場合、税収は7兆2343億円となる。

 

この数値は、消費税を現状より5%アップした場合の見込み税収アップ分13兆5000億円に対して6・3兆円ほど足りない。だが、シニアの資産が消費に回ることで、消費税をアップしなくても、これだけの税収が見込めることに注目してほしい。

 

すでに、消費税増税は国会で可決しているので、この話は空論に聞こえるかもしれない。だが、ここで言いたいのは、若年層に比べたシニアの消費支出によるインパクトの大きさだ。前掲の試算は消費税収に焦点を当てているが、実は、増えるのは消費税収だけではない。それ以上に、一般会計90兆3339億円の1・6倍にもなる144兆6865億円という金額が実体経済に回ることが重要なのだ。

 

ちなみに、先に挙げた正味金融資産(2010年)の平均値は、50代では1109万円、40代では142万円とシニア層に比べて金額が小さい。30代ではマイナス226万円(つまり、貯蓄より負債のほうが大きい)、30歳未満ではマイナス48万円となる。シニア層に比べると若年層の正味金融資産はかなり少ない。若年層の資産の消費はあてにできない。

 

ただし、シニア層が正味金融資産を多く持っているからといって、それがすべて消費に結びつくわけではない。また、先行き不透明感がますます強まるなかで、60歳以上の人すべてに正味金融資産の3割どころか、2割を消費に回してもらうことすら現実的でないという意見もあろう。

 

「企業活動のシニアシフト」が経済を活性化する

 

だからこそ、ここに「企業活動のシニアシフト」の大きな意義がある。商品の売り手である企業が積極的にシニアシフトに注力することによって、買い手であるシニアは、より価値の高い商品や利便性の高いサービスを得られるようになる。

 

つまり、シニアが必要としていたが、これまで市場にはなかった、より付加価値の高い商品・サービスが多く登場するようになる。すると、「そう、こういう商品が欲しかったのよ」という機会が増え、結果としてシニアの消費も増えると予想される。

 

シニアの消費が増えれば、先に挙げた消費税収は増える。また、企業の売上げ・収益が増え、業績が向上すれば、法人税などの税収も増える。

 

この結果、国の税収が増え、財政改善に寄与することになる。財政が改善されれば、ギリシャのように財政破綻することもなく、国際的信用を維持でき、シニアも安心して老後を過ごせるようになるのだ。

 

 

本レビューのさらに詳しい内容については

「シニアシフトの衝撃 超高齢社会をビジネスチャンスに変える方法」を参照ください。

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