AARP-米国最強のロビイストNPO

スマートシニア・ビジネスレビュー 20031124 Vol. 39

AARP先週11月19日にニューヨークタイムズをはじめとする

米国の主要紙に次の広告が掲載された。

 

The proposed prescription

drug Medicare bill isn’t

perfect. But millions

of Americans can’t afford

to wait for perfect.

 

Tell Congress to pass it now.

 

直訳すれば、次の意味だ。

 

「メディケア*で処方箋薬を扱うために

提出された法案は完璧ではありません。

しかし、何千万人もの米国人は、

制度が完璧になるまでは待てません。

最寄りの議員にその法案を通すように言ってください」

 

この広告主は、AARP

以前の名称は、American Association of Retired Persons

会員は、50歳以上の米国人3,500万人。

 

米国の50歳以上の人口は、7,800万人なので、

AARPには米国の50歳以上の人の45%が

参加していることになる。

 

高齢社会問題に関するNPOで、

対象年齢人口の約半分が参加する団体は、

世界中見ても、他に例がない。

 

この圧倒的な会員数が、

全米有数の保険・旅行の販売実績だけでなく、

全米の議員が最も恐れるロビー団体としての

力の源泉となっている。

 

AARPの年間予算は、6億ドル(約720億円)と

NPOとしては破格に大きい。

 

その予算全体の1割近くにあたる

5,700万ドル(約68億円)をロビー活動に使っている。

そして、約100名ものスタッフが、

ワシントンD.C.はじめ全米の主要都市で、

ロビー活動にあたっている。

 

ロビー活動にこれだけの予算・スタッフを

かけられることに驚く。

さらに驚くべきは、そこに集まっている

スタッフのレベルの高さだ。

 

ある米国人のIT分野の専門家が、

ブロードバンドの普及が高齢者に

どのような影響を及ぼすかに関する論文を執筆し、

それに関してAARPのロビイストと会合を持った。

 

その専門家は、ネットユーザーにとっては

当たり前になりつつあるブロードバンドも、

AARPにおける関心の度合いは、

ほんのわずかだと思っていた。

 

しかし、会合をして彼は驚いた。

そのロビイストは、ブロードバンドだけでなく、

IT分野の最新情報とそれが高齢社会に

どのようなインパクトを与えうるのかについて、

きわめて造詣が深かったからである。

 

これはAARPのロビイストの

レベルの高さを示す一例だが、

このような人材を雇うことができるのは、

AARPにそれだけの資金力と

ネームバリューがあるからに他ならない。

 

最近、AARPに関して尋ねられることが多い。

AARPの話をすると、多くの人から

「日本でもAARPのような団体がつくれるといいですね」

という意見を聞く。

特に年長者からこのような意見を聞くことが多い。

 

このような意見は、

「日本でも高齢の人の意見を

政治に反映できるような仕組みがあるといい」

という気持ちの表れだ。

 

最近、政府が発表する方針に、

「所得の多い高齢者への年金を引き下げる、

高齢者の医療費負担を増やす」

など年長者の立場では面白くないものが多い。

 

だが、現状では、政府にモノを申したくても、

効果的な発言の場も、手段もない。

「日本版AARP」が切望されるのは、

このような事情が背景にある。

 

では、「日本版AARP」が実現する可能性はあるのか?

 

その可能性は極めて低いと思う。

その最大の理由は、AARPのユニーク性にある。

世界唯一の極めてユニークな存在であり、

そのコピー団体というのが考えにくいことだ。

 

米国で、これまでAARPと同様の組織を

立上げようとする動きはいくつかあった。

しかし、ことごとく失敗に終わっている。

 

実は、日本でも過去同じような企てが何度もあった。

しかし、それらは、名前は似せても、

AARPとは似ても似つかぬ内容の団体ばかりであった。

 

最近、作家のなだ・いなだ氏の提唱で、

老人党という名前の「バーチャルな政党」が立ち上がった。

 

この「政党」の立上げに合わせて、

マルクスとエンゲルスの著名な

「共産党宣言」のもじりと思われる

「老人党宣言」という本も出版されている。

 

本に書かれている内容は、うなづくことが多い。

だが、たとえば、この老人党が

日本版AARPになるとは、とても思えない。

恐らく提唱した本人もそのようには思っていないだろう。

 

その最大の理由は、AARPのような団体が機能するには、

団体の「理念」とともに、

会員に対する明確な「ベネフィット」が必要だからだ。

だが、現状の老人党には、それが存在しない。

 

AARPは、もともと前身組織の時代には、

退職教職員向けの割安な保険商品の提供が

ミッションだった。

 

日本に比べて社会保障が薄い米国では、

民間保険会社の高価な保険に加入する以外に、

当時は選択肢がなかった。

 

だから、大勢集まって

割安な保険商品を提供することが、

退職者から求められた。

このように、割安な保険商品が買えることが、

会員の一番のベネフィットであった。

 

また、その後会員数が増えると、

需要の多い旅行商品の割引が

会員のベネフィットになった。

 

一方、年齢差別に関わることには、

ことごとくロビー活動を行い、

さまざまな差別の撤廃を実現してきた。

 

一番有名なのは、

「雇用における年齢差別禁止法」の制定と

年齢上限の撤廃だ。

 

この法律の制定により、米国では、定年退職は、

一部の例外的な職種を除いて法的に禁止となった。

能力がありながら、年齢で一律に

退職を余儀なくされた年長者にとって、

働く機会が増えたことによるベネフィットは大きかった。

 

このように、AARPは、理念とともに、

会員に対するわかりやすいベネフィットを

常に提供してきたのである。

 

われわれは、他人の成功モデルを見ると、

そのモデルの結果としての現状だけを見て判断しがちだ。

だが、大切なのは、その結果の背景にある

「実体」をもつことなのである。

 

その「実体」の要は、

会員である50歳以上の人たち自身が

自分たちのために闘うという「意思」である。

 

その意思を強めるのが、ロビイストの役目である。

 

 

*メディケア:65歳以上の人に適用される健康保険。

ただし、現状では処方箋薬の費用は、

メディケアでは賄われていない。

共和党が提出した新法案では

メディケアで75%まで賄う代わりに、

保険料負担を増額しようというもの。

 

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