スマートシニア・ビジネスレビュー 2002716 Vol. 18

boulderjpg-thumb_コロラド州ボルダー_2地理学者のウォーレン・ブランドの「Retire in Style」という本が昨年発売後、爆発的に売れました。内容は米国中でリタイア後に住むのに適する50の場所を12の評価基準をもとにランク付けし、その理由を整理したものです。

 

それによると、最も点数の高い場所は、コロラド州ボルダーでした。

 

ボルダーは、日本では最近では有森裕子や高橋尚子などの女子マラソン選手がキャンプをする所として有名になりましたが、まだ日本人にはなじみの薄い所のようです。

 

このボルダーが実は全米で2番目にヒッピーが多いことはあまり知られていません。コロラド大学ボルダー校を中心に大変学生の多い街で、若者が多いことがその大きな理由となっているようです。

 

ちなみにコロラド大学ボルダー校のレベルは結構高く、2001年度のノーベル物理学賞受賞者も輩出しているほどです。

 

それにしても、普通はリタイア後に住む街としてフロリダ、アリゾナ、南カリフォルニアなどが真っ先に挙げられるのですが、なぜ、この学園都市のような街がリタイア後に住むのに適する第一位に挙げられたのでしょうか?

 

実はここに米国シニアの近未来のライフスタイルを読むヒントがあるのです。

 

ウォーレン・ブランドが50の場所を選定する際に次の12の評価基準を定めました。

 

1. 景観(Landscape) 2. 気候(Climate) 3. 生活の質(Quality of Life)、ここでは騒音や大気汚染が少ないことと定義 4. 生活コスト(Cost of Living) 5. 交通の便(Transportation)6. 買い物の便(Retail Services) 7. ヘルスケア(Health Care) 8. 地域サービス(Community Service) 9. 文化や学習活動(Cultural and Educational Activities) 10. レクリエーション活動(Recreational Activities) 11. 仕事やボランティア活動(Work and Volunteer Activities) 12. 犯罪率と公共の安全(Crime Rates and Public Safety

 

興味深いのは、ボルダーは「文化や学習活動」や「仕事やボランティア活動」で満点(5点)を獲得しているのに対して、フロリダ、アリゾナ、南カリフォルニアの各都市ではあまり点数が高くないことです。

 

実はボルダーだけでなく、リタイア後に適する場所の上位にランクしている都市では大抵「文化や学習活動」や「仕事やボランティア活動」の評価が高いのです。

 

たとえば、第2位のオレゴン州ポートランドではそれぞれ5点、4点、第4位のテキサス州オースチンでは両方とも5点満点となっています。ちなみに、オースチンは、テキサス大学オースチン校という有力大学を中心に、ハイテクベンチャー企業のインキュベーションの盛んな所です。

 

上位にランクされている都市は、もちろん、この二つの評価基準だけでなく、他の基準もまんべんなく評価が高いのです。しかし、ボルダーやオースチンのような所がトップクラスに選定されている結果から、これまで一般的に考えられてきた「高齢退職者が住む所」に対する既成概念を改める必要がありそうです。

 

このような結果が得られた最大の理由は、前述の12の評価基準の選定そのものにあるといえます。実は評価の実施にあたって著者のウォーレン・ブランドは米国で7600万人いる「ベビーブーマー」を意識したことにあります。

 

米国におけるベビーブーマーとは、1947年から1964年生まれまでの人たちのことを指します。日本の「団塊世代」は1947年から1949年生まれまでの人たちのことを指すのに比べ、人口のボリュームゾーンとしては極めて巨大です。

 

2002年現在、このベビーブーマーの最年長者は既に56歳に達しています。米国では50歳から55歳をリタイアの区切りの年齢とする習慣が一昔前からあったため、ベビーブーマーは既に「リタイアの年齢」なのです。

 

しかしながら、このベビーブーマーは、その意識や価値観において従来の「高齢者」と大きく異なっていることは、ジェロントロジストのケン・ダイクウォールドが大ベストセラー「Age Wave」で述べています。

 

「従来の高齢者」に適していると思われるフロリダなどの都市では、この「新しい高齢者」が必要としている機能が不足しているということが、ブランドの著書でより明確になったのです。

 

1960年代から元気な高齢者を対象にしたアクティブ・アダルト・コミュニティ「サンシティ」を建設してきたデルウェッブ社も最近コミュニティつくりの方針を大きく転換しました。

 

Aging Boomer」という新しいタイプの高齢者に適した新しいスタイルのコミュニティつくりに取り組み始めたのです。

 

そして、このような「Aging Boomer」は米国だけではなく、日本でも確実に増えています。