中小企業こそ必要なスマート・エイジング

中退共だより 2020年4月号

“超々高齢社会”では認知症が中小企業の経営リスクになる

全人口に対する65歳以上の人の割合を高齢化率と言い、日本は28.4%で世界一となっています(2019年9月15日現在)。

高齢化率が高くなると認知症の高齢者数が増え、2020年には631万人に上ると推計(厚生労働省)され、これは全高齢者の18%に達します。

また、認知症の発症率は年齢と共に上昇し、75歳を過ぎると急増します(図1)。実は中小企業経営者のピーク年齢は66歳に達しており、まもなく全国で約30万人の経営者が70歳を迎えようとしています。

こうした状況を背景に「現役経営者・社員とその家族」が認知症になるケースが増えています

例えば、仙台市で酒屋を営んでいるある女性経営者は、12年前に社長だった夫が心筋梗塞で急死、主婦だった彼女が急きょ経営者になることになり、人生が激変しました。

しかもその後、義理の母が認知症になり、会社経営の傍ら6年半介護をせざるを得ず、大変なご苦労をされました。

また、創業30年の会社の創業者が認知症になり、事業承継で苦労された例もあります。会社経営に関する情報が創業家以外に共有されておらず、資金調達や取引決裁などで大きな障害が発生したのです。

このように中小企業の場合、経営者・社員とその家族が認知症になると、大企業の場合と比べて会社経営への影響が大きくなります。したがって、中小企業こそ経営者・社員とその家族が認知症になるリスクを減らすことが重要となります。

認知症になりにくい生活スタイル、それが「スマート・エイジング」

現在、認知症の原因となる疾患の多くはアルツハイマー病です。実はアルツハイマー病を含む加齢性疾患は、個人のもつ「遺伝要因」と、生前・生後に受ける様々な「環境要因」によって生じます。

このうち「遺伝要因」は変えられませんが、「環境要因」は自分の生活習慣で変えられます。そこで、認知症になりにくく、元気にいきいきと過ごすための生活習慣として提唱しているのがスマート・エイジングなのです。

「スマート・エイジング」とは、私が2006年から提唱している超高齢社会の加齢観です。東北大学ではこの考え方に沿って様々な加齢科学の研究を推進しています。

スマート(Smart)とは「賢い」という意味ですので「スマート・エイジング」は「賢く齢を加えていく」という意味になります。

もう少し詳しく言えば「個人は時間の経過とともに、たとえ高齢期になっても人間として成長でき、より賢くなれること、社会はより賢明で持続的な構造に進化すること」を意味します。

単に前向きに生きる(Positive Aging)とか、健康に歳を重ねる(Healthy Aging)とかにとどまらず、生きている限り「人間として成長できる」、そのために必要な生活スタイルをもつという意味合いを込めています。

東北大学では、これまでの医学、心理学、社会学などの知見を統合して、心身の健康を含めて、個人が健やかで、かつ穏やかな生活を人生の晩年まで送るためには、「運動」「認知」「栄養」「社会性」の4条件が満たされる必要があると結論づけました(図2)。

この条件と最新の研究成果による知見を踏まえ、スマート・エイジングのための秘訣をお話します。

秘訣その1:有酸素運動をする

要介護になる原因のトップが認知症と脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)です。しかし、認知症になる原因の約3割が脳卒中で、脳卒中がきっかけで認知症に進む人も多いことから、脳卒中の予防は最も重要です。

脳卒中のおもな原因は高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病で、その予防・改善に有効なのが有酸素運動です。最も手軽なのは1日30分以上歩くことです。疫学調査でも有酸素運動に認知症予防効果が科学的に検証されており、認知症予防の観点からも重要です。

秘訣その2:その2 筋トレをする

一般に体幹部から下半身の筋肉は加齢とともに衰えます。このため高齢期には歩行時につまずいたり転倒したりして骨折し、入院・寝たきりになりがちです。

自力で移動できなくなると認知機能が低下し、認知症になりやすくなります。これを防ぐには、スポーツをしたり、ジムに通ったりして、積極的に筋トレ(筋力トレーニング)を行い、体幹部や下肢の筋肉を鍛えることが大切です。

秘訣その3 脳トレをする

私たちの身体では大脳前頭葉の「背外側前頭前野」と呼ばれる部位が脳全体の司令塔となり、記憶や学習、行動や感情を制御しています。

実はこの部位の機能は20歳を過ぎた頃から低下します。中高年になると以前より涙もろくなったり、キレやすくなったりするのは、この部位が担っている感情の「抑制機能」が低下していくためです。

この機能を維持・向上するのに有効なのが脳トレです。これには「情報の処理速度を向上する」ものと「作動記憶容量を拡大する」ものの2種類があります。

前者の例としては、①大きな声で音読する、②簡単な計算を素早く解く、③手で書く、ことが挙げられます。毎日手軽にできる①の例として、1日800字程度、新聞のコラムなどの音読がお勧めです。また、②、③は市販の脳トレドリルを利用するのもよいでしょう。

一方、後者の例としては、「スパン課題」※1と「Nバック課題」※2があります。興味深いことに、この作動記憶のトレーニングを続けると、脳の実行機能、予測や判断力、集中力も向上し、仕事や勉強の効率が上がったり、家事がスピードアップしたり、スポーツが上達したりと、さまざまな効果が現れることがわかっています。

中高年のみなさまには「スマート・エイジング」を実践して加齢に対する適応力を付け、いくつになっても人生を楽しく豊かにしていただきたいものです。

※1「スパン課題」:例えば、数字を1、7、8、2……5と一つずつ見せたり聞かせたりした後に、覚えた数字をそのまま提示した順番で答えてもらったり、見たり聞いたりしたものとは逆に答えてもらったりする課題。

※2「Nバック課題」:連続して情報が提示されている最中にN個前に提示された情報を思い出して回答してもらう課題。例えば、数字を、1、7、8、2……5と一つずつ見せたり聞かせたりしている最中に、2バック課題では3番目に8が出てきた瞬間に、その2つ前に出てきた数字である1と答え、4番目に2が出てきたときには、同じくその2つ前に出てきた数字7と答えます。これを連続して行います。

スマート・エイジング 人生100年時代を生き抜く10の秘訣

中退共だより

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