テレビ視聴時の脳の状態

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第167回

コロナ禍で運動不足・カロリー過多・不眠症が増えている

筆者らが提唱しているスマート・エイジング実現のためには「運動」「認知」「栄養」「社会性」の4つが必要条件だ。

ところが、新型コロナウイルス感染症の流行で生活スタイルが変わり、これらの条件を満足しにくい要因が増えてきた。

例えば「運動」の面では外出自粛の影響で特に中高年を中心に運動不足の人が増えている。コロナ禍以前にスポーツジムに通っていた人も、通いをやめると「運動しないこと」が習慣化してしまう。特に高齢者は感染時の重症化リスクが高いとされ、外出機会が減り運動不足になりがちだ。

また「栄養」の面では、飲食店の営業自粛で夜の外食機会が減り栄養状態が改善した人がいる反面、在宅勤務や巣ごもり消費の増加でカロリー過多となり「コロナ太り」の人が増えている。

さらに「社会性」の面では外出自粛の影響で他者とのコミュニケーション不足による孤独感の増加、うつ病や睡眠障害が増加している。特に高齢者住宅や介護施設では未だに外部との接触が厳しく制限されており、深刻だ

テレビ視聴とビデオ鑑賞が増加

一方「認知」の面はどうだろうか。外出機会が減り、運動不足やコミュニケーション不足が認知機能の低下を促すのはもちろんだが、私が気になるのは巣ごもり生活の長期化でテレビやビデオ視聴時間が増えていることだ。

日本能率協会総合研究所が昨年10月に60歳から90歳の2500人を対象に実施した調査を見ると、その傾向が明らかだ。(図表)

3年前に比べて回数が増えた趣味は何かという設問に対して、テレビ視聴17%、園芸・庭いじり16%、散歩・ウォーキング14%、読書13%、ビデオ鑑賞8%と回答され、テレビ視聴とビデオ鑑賞頻度が増加していることがわかる。

テレビ視聴時に前頭前野に「抑制現象」が起きる

以前触れたが、テレビ視聴時に大脳の前頭前野(ぜんとうぜんや)に「抑制現象」が生じることが東北大学の川島隆太教授らの研究でわかっている。この現象が生じると、前頭前野の活動量が安静時よりも少なくなる。

注意したいのは、この現象はテレビ番組の種類に関係なく生じることだ。またビデオ鑑賞も脳科学的にはテレビ視聴と同じだ。

抑制現象が生じている場合の前頭前野は、実はリラックス状態にある。このため一日の仕事が終わった後、2時間程度視聴するのならリラックス効果として問題ない。ところが、これが一日5、6時間以上、毎日続くと弊害が出る。

前頭前野は情報処理と思考の中枢であり、コミュニケーションや判断、意思決定など重要な機能を担っている。したがって、この部位の活動に長時間抑制がかかると、活動が低下した状態が長く続くことになり認知機能の低下につながる。

ユーチューブ視聴時にも前頭前野に「抑制現象」が起きる

さらに、懸念されるのはテレビ視聴時間に加えて、「ユーチューブ」の視聴者数と視聴時間も増えていることだ。

ユーチューブは誰かに接触せずに情報伝達・入手する手段として、コロナ禍で一人当たりの利用時間が増えた。パソコンやスマホがあれば誰でも気軽に利用できるため、新規視聴者数も急増した。

ところが、ユーチューブ視聴はテレビ視聴とほぼ同じ活動である。このためテレビ視聴同様に、視聴時に前頭前野に抑制現象が生じると考えられる。

このようにして、コロナ禍の進展により、前頭前野の活動を抑制する生活スタイル、いわば「アンチ・スマート・エイジング」が急増しているのだ。

対策はテレビ・ビデオ視聴時間の制限・脳トレの実施

対策としては、まず、テレビ視聴とユーチューブ視聴は、一日2時間程度にすること。このためには本当に観る価値のあるものだけに絞り込むことが必要だ。幸いユーチューブには視聴時間のチェック機能が付いている。

次に、これまでに紹介した脳のトレ―ニング(脳トレ)を一日15分程度集中して行うことだ。これにより活動量の低下した前頭前野の活動を活性化してバランスを取ることができる。

こうした生活スタイルもウィズコロナ時代のニューノーマルの一つだろう。

 

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シルバー産業新聞

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