中小企業経営者を守る「スマート・エイジング」の秘訣 第3回

睡眠ホルモン メラトニンの分泌条件 新聞・雑誌
睡眠ホルモン メラトニンの分泌条件

Plus One 2023年5・6月号

スマート・エイジングのための重要な要素の一つに「良質な睡眠」があります。今回は前回お話しした「元気でいきいきと過ごすための秘訣」から「ぐっすり眠るための秘訣」をご紹介します。

なぜ、よく眠ることが大切か?

私たちの体には睡眠中に脳の中の老廃物を脳の外に洗い流す仕組みが働きます。睡眠中に脳の神経細胞の周囲の空間が拡がり、神経細胞を洗い流すリンパ液の流れが大幅に増加します。

すると昼間よりも効率よく老廃物を回収できるようになり、老廃物を含んだリンパ液は静脈に沿って脳外へと運び出されます。

この仕組みがうまく機能しないと脳内にアミロイドβなどの蓄積が増えることがわかっています。つまり、睡眠の質が低い状態が長く続くと、アルツハイマー病のリスクが高まるのです。

また、眠っている間(レム睡眠の間)に脳は記憶を整理統合していることがわかっています。これは毎日の覚醒中に入ってくる情報で脳がパンクしないためには、取捨選択して古い情報を捨てるという作業が必要になるからです。

人生のおよそ3分の1は眠りです。人生100年時代には、およそ33年眠るわけです。この長い期間にわたって、毎日を元気にいきいきと過ごすためには、毎晩ぐっすりとよく眠れること、つまり良質の睡眠が不可欠です。

睡眠の質に重要な「メラトニン」とは?

コロナ禍の影響で不眠症などの睡眠障害に悩まされる人が特に中高年で増えています。在宅勤務など生活習慣の変化、仕事や将来への不安が原因と思われます。

現状、日本人の40歳から59歳で約5人に1人が、60歳以上だと約3人に1人がなんらかの睡眠障害を抱えているといわれています。そもそも、なぜ中高年に睡眠障害が多いのでしょうか。

睡眠の質とそれに関連する体内時計の調節に重要な役割を担っているのが「メラトニン」というホルモンです。メラトニンは目に入る光の量が減ると分泌が始まり、光の量が増えると分泌を止めます。

つまり、夕方暗くなってから出始め、暗い間は出続け、明るくなると出なくなります。

メラトニンが血中に放出されると脈拍、体温、血圧が下がり、睡眠の準備ができたと体が認識し、睡眠に向かわせる効果があります。

中年期から不眠症の人が増える理由

睡眠障害で最も多く見られるのが不眠症で、①寝つきが悪い(入眠障害)、②眠ってから頻繁に目覚めてよく眠れない(中途覚醒)、③早く目覚めすぎて困る(早朝覚醒)、④休息感が欠如している(熟眠障害)の4種類があります。

中年期以降に不眠症が増える理由として次の3つが考えられます。

第一に、加齢に伴いメラトニンの分泌量が減ることです。一般に思春期以降減少しはじめ、70歳を超えるとピーク時の10分の1以下にもなります。

加齢により分泌の信号伝達系に「退行性変化(組織の形が変化して、その働きが低下すること)」が生じるのが原因と考えられています。

第二に、仕事や身の回りのことからくる精神的ストレスにより調節系の神経伝達物質「セロトニン」の分泌量が低下し、これに伴いメラトニンの分泌量が減るためです。

前回触れた通りメラトニンはセロトニンを原料に生合成されるので、セロトニンの分泌量が減るとメラトニンの分泌量も減少します。

第三に、夜間、光に当たっている時間(光暴露時間)が長くなることで、メラトニンの分泌量が減ることです。

多くの課題と責任を背負っている中小企業経営者は、ついつい夜中にもパソコンやスマホを見てしまいがちです。

実はこれらの液晶画面や蛍光灯から発生する強力なブルーライトが、メラトニン分泌を抑制します。ブルーライトを夜中に過剰に浴びるとメラトニンの分泌が減るだけでなく、脳や体を覚醒状態にする交感神経が優位になり、さらに不眠症を起こしやすくなります。

眠りの質を上げるために入眠2時間前にやるべきこと

前述の不眠症の要因とメラトニン分泌の仕組みを考慮すると、眠りの質を上げるには以下が有効と考えられます。

1.入眠前2時間は「リラックスモード」に入る

これは寝つきをよくするための対策で、例を挙げると①38度ほどのぬるめのお湯で体をじっくり温める、②パソコン、スマホなどの電源を切る、③白湯や生姜湯などカフェインのない温かい飲み物を飲む、などがお勧めです。

2.入眠前2時間はアルコール類を飲まない

寝酒は中途覚醒の大敵です。アルコール類を摂ると中枢神経の活動が抑制され、一時的に眠気を生じますが、抑制性の神経伝達物質であるGABAの作用も抑制するため、中途覚醒が起きやすくなります。

また、アルコールには利尿作用があるため、夜中に何度もトイレに行きたくなり、中途覚醒しやすくなります。

3.入眠前2時間は激しい運動をしない

激しい運動は交感神経を活発にさせます。入眠前に心拍数を上げて息があがるほどの運動をすると、交感神経が優位になり、体が覚醒状態となり睡眠を妨げます。

運動を行うなら、ストレッチや呼吸運動主体のヨガなどの軽いものがお勧めです。

4.入眠前2時間は食事をしない

入眠前2時間以内に食事をすると、身体は消化吸収に集中することになり、睡眠時に脳や身体を休めることができなくなります。

夜遅い食事になってしまう場合には、牛乳やヨーグルトなどのたんぱく質を多く含み、消化のいい乳製品を少量摂るのがいいでしょう。ぜひ今日から「入眠2時間前」の生活を変えてみましょう。

自分に合った寝具を選ぶ

見落としがちな重要なポイントは枕です。自分の体型に合わせて高さや形状、硬さを調節できる枕がお勧めです。

私もこれまでさまざまな枕を試してきましたが、自分の体型にパーソナライズできる枕が、首痛などを防ぎ、質のよい睡眠にとって有用です。

マットレスも重要です。枕と同じように自分の体型に合わせて高さや形状、硬さを調節してくれるものがお勧めです。

こうした特殊なマットレスは通常品に比べ高価ではありますが、眠りの質の向上を考慮すれば決して高価な出費ではありません。

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