年を重ねる毎に賢く輝く生き方は年齢の変化に対処すれば可能

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学研 らくらく年金暮らし 2014年秋号 Let’s Smart Ageing

50代以降の人たちが不安に思う内容について、さまざまな対処法を紹介してきました。でもただ不安に思うだけでなく、もっと前向きにこれからの人生に向きあえないものでしょうか。東北大学加齢医学研究所の村田裕之さんにアドバイスをいただきます。

今後は「第2の人生」と区切らず、生涯で自分の生き方を考える時代

高齢社会研究の第一人者村田裕之さんは、シニアの後半生を活力にあふれたものにするための講演を全国で行っています。そんな村田さんに、シニア世代の3大悩みの解決策についてお聞きすると「私は健康・経済・孤独の3K不安を解消すること」と即答。あらためてシニアが関心を多く寄せているテーマだということが伺えます。

 健康への不安も、原因を知れば対策はできる

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1番目の健康不安にはどう対処したらいいのでしょうか。65歳以上の高齢者のうち、85歳を過ぎると女性が474%、男性は312%が介護認定を受けているのが現状。

「その原因のトップは脳血管性疾患、いわゆる脳卒中です(グラフ参照)。次に多いのが認知症、以下関節障害、骨折・転倒と続きます。これらより介護が必要になる原因の75%は、脳と運動器に関わるものだということがわかります。ということは、脳を鍛え、運動で体の機能低下をくい止めていけば、年をとっても元気に過ごすことができるんですね」

原因を特定していくと、やみくもに不安がらずにすむというのが村田さんの持論。

 「脳卒中などを防ぐには、やはり生活習慣病の改善が重要になります。脳卒中の危険因子は高血圧、喫煙や大量飲酒、運動不足、肥満、糖尿病などで、それらに効果的なのが有酸素運動です。1日30分、ゆっくりジョギングをしたり、泳いだり、運動が苦手な人は歩くだけでもいいのです。ただ、最近の年配者には、すでにこうした活動を実践している人も多いようです。

これに対して、実践割合が少ないのが筋トレです。転倒して骨折し、そのまま寝たきりになるなどのケースはとても多く、その原因は筋肉や運動器の衰えなのです。特に女性は下半身の筋力が衰えやすいので、意識的に鍛える必要があります。有酸素運動に加えて、ぜひ筋トレを実践することが重要です」

体のトレーニングに加えて忘れてはならないのが脳の機能を衰えさせないための工夫。村田さんは東北大学で川島隆太教授とともに加齢医学を研究しています。

  「定年退職した男性は、仕事以外にやることがなくなると何をすると思いますか?答えは『寝る・テレビを観る・酒を飲む』です。こうしたライフスタイルは要介護予備軍への道です。額の後ろ側にある前頭前野という部位は、コミュニケーションや意思決定など健康な生活を送るために重要なところです。

ところが、テレビを観ているとき、前頭前野はほとんど働いていません。一方、大きな声での音読、簡単な計算を素早く行うこと、手書きが前頭前野を含む脳の色々な部分を活性化することがわかっています。実際にこうした理論を取り入れた『学習療法』や『脳の健康教室』などに通っている人は、以前よりも生活に張りが出たり、気持ちが明るくなったりという結果が出ています。何もそうした教室に通わなくても、上記のような活動を生活に取り入れることで脳機能の衰えを防ぐことができるのです」

「本誌の読者なら、2番目の経済不安、つまりお金の不安が大きいでしょう。老後の主な収入の年金制度の先行きが見えないことや長生きに伴う出費増など不安の種は尽きません。結局、『働けるうちはなるべく働きましょう』とアドバイスしています」

 確かに、昨年の総務省の「就業構造基本調査」でも、5年前に比べて8割以上の都道府県で、高齢者の就業希望者率は増加しています。ただし、働く場が限られているのも事実。

  「働き続けるためにも60代、70代でもできる特技があるといい。それもできるだけ自分の好きなことがいいです。それは趣味でもいいし、仕事の延長線上でかまいません。家事が得意な人が家事代行サービスを行うなんて理にかなっているじゃないですか」

講演などでも、後々慌てないように「50代くらいから自分が年をとってからもやっていけることを考えておくといい」と話しているという村田さん。ひょんなことから新しいビジネスを始める人もたくさんいるという。

 「道端で転んでいたお年寄りとの出会いがきっかけで買い物代行サービスを始めた人もいます。彼は現役時代の仕事のおかげで築地にとても詳しかったので、お年寄りのニーズを聞いて築地などで買い物を代行する商売を始めました。

ところが、これ大当たり。どこにきっかけがあるかわからないものですね。『○歳まで働いて、その後は第2の人生』ではなく、これからは生涯で自分の生き方を考える時代。とはいえ、将来に自分が何をするかを正確に予測するのは不可能です。それよりも今取り組んでいる仕事を徹底して、キャリアを深めておくことが、今できる一番の準備なのです」

血縁や仕事の縁だけでなく好きなものとの縁も大事に

外に出て人と積極的にコミュニケーションをとることは脳を元気にするだけでなく、3番目の孤独不安も解消する、と村田さん。

 「これからの時代で重要なのは、知的好奇心で結ばれる縁、『知縁』です。自分の興味のあることに関わる縁を大事にしていこうという考えです。同居相手がいなくても、仕事や趣味の仲間がいれば、孤独感はかなり解消されるのではないでしょうか。釣り仲間でもいいし、音楽仲間でもいい。

また好きなことは趣味でなくてもいいんです。片付けが好きで得意なら、それを人に提供するサービスを考えてもいいですね。『30分で親の家が片付くワザ』なんてブログで連載したら、出版社からアプローチがくることだってあり得ます。そういう機会の多さを考えれば、これからのシニアはネットを巧みに使うスキルがあった方がいいですね」

年をとってできなくなるものより、できることに目を向ける

とはいえ、お金もかかるし、趣味が特につくれないという人も多いもの。そんな人はどうやって「好きなもの」を見つければいいのかというと——村田さんは「意外と自分のことは自分ではわからないから、そんなときは家族や身近な人に聞いてみたら」と提案します。

  「ファッションにこだわりがあるとか、いつもまめに連絡をするとか、あなたが気づかないよさをきっと教えてくれるはず。それを外の仲間との関係性に活かせばいいと思うんです。まめに連絡をとる人ならボランティアを始めてみたり…できることはたくさんあります」

「アンチエイジングという言葉が流行り、若返りという意味で使われていますが、それは間違いです。エイジングとはエイジ(age)の進行形(ageing)で年を重ね続けること。つまり、生き続けることです。それをアンチと否定するのは、生き続けることの否定になってしまいます。そうではなく、年を重ねるごとに何かを学び、成長していく生き方。それがスマート・エイジング(smart ageing)の意味です。」

 30代で見える世界と40代、50代、60代で見える世界は違うもの。「年をとることをまるで社会的価値が下がるように思う方もいるようですが、それは違います。年齢を重ねるごとに人間として成長し、その結果、以前よりも知的に成熟した賢い生き方ができると私は考えています。そんな生き方をぜひ実践してほしいですね」

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