アルツハイマー病の進展過程

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第174回

巷にあふれる「認知症予防」という言葉

「認知症予防」という言葉をよく目にする。2015年の厚労省の推計で、日本の認知症人口が520万人、認知症予備軍となる軽度認知障害(MCI)人口を加えると800万人以上と発表されて以来、認知症予防という言葉がメディアで頻繁に聞かれるようになったと思う。

以前、ある民間企業が高齢者を対象とした全額自費負担の健康支援サービスを始めた。その店舗に行くと「認知症は予防できる」と書かれた大きな垂れ幕がかかっていた。参加者の中にはこの言葉を期待して通って来る人もいたようだ。

だが、果たして認知症は「予防できる」と言っていいのだろうか?現段階では答えは「NO」だ。

脳のトレーニングで認知症は改善する

認知症が「痴呆(ちほう)」と呼ばれていた頃は、一度症状が出ると、予防どころか改善すら不可能と思われていた。

しかし、東北大学・川島隆太教授らの研究で、科学的エビデンスに基づく脳のトレーニングを“手順通り”行なえば、たとえ重度の認知症の人でも、症状が改善することが分かっている。公文教育研究会との産学連携で開発した学習療法は、そのトレーニング手法の一つだ。

学術的な話を少しすると、トレーニングによって脳の神経細胞同士のつながりが強化され、脳の体積が増えるほか、脳を形作る電気的な回路の働きも活発になることがわかっている。

この結果、衰えていた認知機能の多くが回復あるいは向上する。認知症だった人の症状が「改善」して日常生活に復帰できた事例を私たちは数多く知っている。

認知症予防につながるトレーニングとは?

では、どんなトレーニングを行なえば認知症の「予防」につなげることができるのか。現段階で明らかに言えるのはウォーキングなどの「有酸素運動」だ。これには認知症の予防効果があることが研究データから分かっている。

一方、有酸素運動以外のトレーニングについては、まだその効果を確かなものだと断言することはできない。

東北大学の研究では、「疫学(えきがく)」の考え方に基づいて効果などを見定めている。疫学とは、様々な人間の集団を追跡調査することで、生活習慣と身体の異変との因果関係などを調べる学問のことだ。

しかし、追跡調査には長い期間が必要なので、ほとんどのトレーニング手法は、まだ疫学的に十分なデータが揃っていないのだ。

こうした事情から、脳のトレーニングについても研究者としては認知機能改善の効果が「ありそうだ」ということしか言えない。だが、トレーニングで認知機能が改善した実例は沢山あるので、少なくとも無意味ではないと言える。

アルツハイマー病の発症過程

認知症の原因となる疾患には70種類以上あると言われるが、一番割合が多いのがアルツハイマー病である。

この病気の発症過程は、①βアミロイドやタウタンパクなどの変性たんぱく質の蓄積、②①による神経細胞死による脳の形態変化(脳の神経細胞・神経線維の脱落による萎縮)、③②による認知機能(実行機能、抑制機能など)変化、④行動変化(徘徊、記憶障害等)、⑤医師による診断で確定、となっている。

近年の研究では、βアミロイドやタウタンパクなどは20歳を過ぎた頃から脳内に蓄積され始めることがわかっている。

このため、高齢期になってアルツハイマー病と診断された時点で、すでに脳内にかなりの蓄積がある。

これらの蓄積を減らすためには、20代など若い頃からの生活習慣が重要となる。しかし、前述の通り、その検証には長い期間が必要だ。認知症予防研究は、まだ道半ばなのだ。

以上の背景を理解せずに、「この製品・サービスで認知症は予防できる」などとうたったものがあれば、それは眉唾だと思った方がよい。

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