作動記憶量を拡大する脳トレアプリの例

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第177回

作動記憶量が減ると新しいことにおっくうになる

一般に高齢になるにつれ新しいことに取り組むのがおっくうになる。原因は、私たちの認知機能の一つ「作動記憶量」が加齢と共に減っていくことにある。

すると、新しいことの理解に必要な時間と労力が増えていくため、高齢になると新しいことの学習がおっくうになるのだ。

高齢者にとって通販ではまだ紙のカタログが好まれ、会員向けの通知も紙ベースの希望が多い。新型コロナウイルスのワクチン接種予約もネットより電話が圧倒的に多かった。

「新しいこと=ICTやデジタル機器」の習得がおっくうなため「昔からなじんだもの=電話など」を好むのだ。

一方で、高齢期でも新たなことに取り組み、活動的に過ごす人も目につくようになっている。

81歳でiPhoneアプリ「hinadan」を開発し、米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)から「世界最高齢のアプリ開発者」と紹介された若宮正子さんは86歳。日本最高齢のフィットネスインストラクターとして活躍中の瀧島未香さんは90歳だ。

高齢期でも新たなことに取り組む人の共通点

この二人には共通点がある。一つは、新しいことに取り組み始めたのが60代だという点。若宮さんがパソコンを始めたのは定年退職後だ。人とおしゃべりをするのが好きな彼女は当時流行り始めていたパソコン通信を始めるためにパソコンを習ったという。

瀧島さんもスポーツジムに通い始めたのは65歳。70歳で水泳を始め、72歳でマスターズの水泳大会に出場し、クロールと平泳ぎで大会新記録を獲得している。さらに74歳からフラダンスを始め、78歳からヒップホップを始めている。

もう一つは、二人とも「世界最高齢のプログラマー」「日本最高齢のフィットネスインストラクター」という「世界(日本)最高齢の○○」で注目を浴びていることだ。

陸上競技などでは高齢になるにつれ参加者が限られるため、「70歳以上の部で世界記録」といった例が少なくない。つまり、普通の高齢者ならまだ誰もやっていない「ニッチな分野」で活躍しているのだ。

年金生活ができる高齢者にとっては多額の金銭報酬より、他人に認められたり、社会的注目を浴びたりする「心理的報酬」の方が、継続のモチベーションが上がりやすい。

「高齢者なのにここまでやるのか」と思わせる活躍の場を見つけることで継続の大きな動機となっているのだ。

この二人のように、高齢になってからも新しいことに取り組める人は、前掲の「作動記憶量」が何らかの理由で若い頃と同等に維持されている可能性が高い。

この傾向は、若い頃から好奇心が旺盛で、多くのことに興味を持ち、行動的な人に多く見られる。

いくつになっても新たなことに挑戦できる秘訣

しかし、若い頃にこうした傾向がなかった人もあきらめることはない。実はこの作動記憶量は「スパン課題」や「Nバック課題」といった脳のトレーニングによって拡大できることが東北大学の研究で明らかになっているからだ。

スパン課題とは、例えば数字を1、7、8、2……5と一つずつ見せたり聞かせたりした後に、覚えた数字をそのまま提示した順番で答えてもらったり、見たり聞いたりしたものとは逆に答えてもらったりする課題だ。

Nバック課題とは、例えば数字を、1、7、8、2……5と一つずつ見せたり聞かせたりしている最中に、2バック課題では3番目に8が出てきた瞬間に、その2つ前に出てきた数字である1と答え、4番目に2が出てきたときには、同じくその2つ前に出てきた数字7と答える。

興味深いことに、このトレーニングを続けると、脳の実行機能、予測や判断力、集中力も向上し、仕事や勉強の効率が上がったり、スポーツが上達したりと、さまざまな効果が現れることもわかっている。

脳には「可塑性(かそせい)」と呼ばれる変化する性質があり、加齢により認知機能が衰えたとしても、鍛えることによって機能回復できる可能性がある。

いくつになっても新しいことに挑戦するのに遅すぎることはないのだ。