シニアのニーズ把握の究極は「人間を知る」こと

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日経BizGate 識者コラム 成功するシニアビジネスの教科書より 

その人の「状態の変化」がわかるとシニアのニーズが見えてくる

連載の第2回で述べたように、シニアの消費は「年齢」では決まらず、シニア特有の「変化」で決まります。シニア市場に取り組む際に大事なことは、シニア顧客が一体、何を求めているのか、その理由は何かを、とことん知り尽くすことです。

そのためには刻一刻と世の中が変わっていく状況の中で、シニア顧客が如何なる理由で、どのように変化しているのか、に想像力を働かせて、その変化を具体的に追わなければいけません。

 連載の第4回で、65歳になっても働き続けたい人が増えているという話をしましたが、これはかつての「2007年問題」の時とは違った傾向です。翌年に起きたリーマンショックによる景気低迷で、先行き不安が強まったこともあり、元気に働けるうちは働きたいというシニア層が増えました。これは時代性の変化であり、年齢の変化ではありません。

 売りたい商品を顧客に提示して顧客の反応を直接知れ

一番良いのは、その会社の社員が直接、自分たちが売りたいと思っている潜在ユーザー層とのコミュニケーションの機会を持つことです。そうすればアンケート調査などでは見えてこない相手の考えが、皮膚感覚ではっきりと分かってきます。

私はかつて高級老人ホームの販売のために先頭に立って営業をした経験があります。見学に訪れたシニアの方々の口からは「ここはとても素敵。ぜひ入居したいわ」との好感触の言葉があふれました。見学会では立派な食事も無料で提供しましたから、終始ご機嫌の様子で、アンケートへの回答内容もきわめて前向きでした。

ところが、いざ、具体的な商談の場になるや急に歯切れが悪くなるのです。後でこっそりと事情を伺うと、予算の問題や家族関係の問題などで、どうしても買えないと呟かれる。高額商品ほどそうした傾向が強く、アンケートの回答はほとんど当てになりません。実際の商品を価格とともに示すことで、初めて買い手の本音が具体的に透けて見えるのです。

シニアのニーズの正確な把握には「シニア人間学」が不可欠

そのような場合でも、その人の家族構成から、どういう可能性があるかを想像し、たとえば息子や娘との間の確執、あるいは夫との関係が不和である場合なども念頭においた周到な対応策を用意しておけば、そうしたこちらの姿勢に心打たれて、老人ホームの購入に踏み切るかもしれません。

 シニアの年齢層の人なら、誰でも何らかの生活上の課題を持っているのが普通です。家族との確執、自分自身や家族の病気、相続トラブル、孤独など。そのような人の気持ちの機微が常識として分かっていなければ、彼らの消費行動を理解することは到底できません。60歳代、70歳代の人は、どういう風に世の中を見る傾向があるのか? 後半生の人間関係のつくり方にはどういう傾向があるのか?など、いろいろあります。

 そうしたことを理解するために何が必要かを突き詰めると、究極は「人間を知ること」に行き着きます。シニア市場でチャンスをつかもうとするのなら、シニアのニーズの正確な把握が必要です。そのためには「シニア人間学」とでも呼ぶべき、高齢期の人間に対する深い理解と思いやりのある眼差しが不可欠なのです。

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