繰り返されるシニア市場創出の試みから何を学ぶか

海外動向

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第106回

香港初のシニア市場イベント

ファッションショー2

1月30日、31日に香港で開催されたゴールデン・エイジ・エキスポ&サミットに参加した。サミット初日に基調講演者と招かれた私は「シニア消費者の消費行動:日本の経験」をお話しした。

ゴールデン・エイジ(Golden Age)とは、もともとギリシャ・ローマ神話のなかに出てくる黄金時代のこと。これにあやかって、主催者は45歳以上の人を人生の黄金時代を迎える人としてGolden Ageと呼んでいる。

会場は、日本で言えば東京ビッグサイト、香港最大のイベント会場だ。この一角に展示場とそれに隣接してサミット会場が設置されていた。開会式では、主催者と政府関係者による挨拶に続いて、ファッション・ショーが始まった。

ファッション・ショーに重点が置かれた開会式

展示会の様子2

ショーの様子は、日本の巣鴨で毎年行われている「ガモコレ(巣鴨コレクション)」を小規模にした感じで、特に目新しさはなかった。だが、香港の人たちにとっては初の試みのようで、参加者から大きな歓声が上がっていた。

ショーの後に基調講演があり、その後再びショーが開催された。実にセレモニーの時間の3分の1をショーに充てていた。この動きが目指す具体的なゴールをイメージしてもらうのが狙いなのだろう。

一方、展示会は日本のHCRなどに比べると規模は小さく、展示物も階段を昇降できる車いすから足裏のツボを刺激する靴底など、いわゆる元気シニア向けから介護商品まで玉石混交状態。多くの日本製品コピーが見られたが、日本製品はまったく展示されていなかった。

イベントの主催者はGolden Age FoundationというNPOで、Golden Age経済あるいはGolden Age市場創出を狙って組織化されたものだ。

多くの国で繰り返される類似のイベント

novita_TOTOコピー

さて、こうしたイベントに参加して感じるのは「この光景、以前も見たな」というデジャ・ビュ感だ。

というのは、シニアビジネス分野で17年以上も活動していると、似たような動きが繰り返す光景を何度か目にするからだ。

日本では02年頃「アクティブ・エイジング・キャンペーン」というのがあった。これからアクティブシニア市場が拡大すると謳って、複数の大手企業から協賛を募り、タレントによるトークショーと展示会を行ったものだ。このイベントは開始当初は注目を浴びたものの、3年後には消滅した。

以降、「大人の文化祭」「GGコレクション」などといったイベントが数年おきに出現したが、どれも数年で消滅している。

興味深いことに、こうした動きは日本以外でも何度か見られている。

04年頃、アメリカのASA(American Society of Aging)という介護系の団体が「Business Forum on Aging」というグループを立ち上げ、アクティブシニア市場創出の動きを図ろうとした。しかし、日本以上に競争が激しい民間企業同士でのコラボはなかなか機能せず、数年後に消滅した。

08年にシンガポール「Silver Industry Conference & Exhibition」が政府の肝いりで開催された。シンガポールが次に目指すべきはシルバー産業だとして、巨額の補助金をつぎ込み、アクティブシニア市場開拓の動きを試みた。だが、結局3年後には方針を転換、介護産業の育成にシフトした。

また10年にはドイツでアクティブシニアのことを「Best Ager」と呼んで、市場喚起を図る動きがあった。同じく10年頃から韓国でもアクティブシニア市場への関心が高まり、多くのイベントが開催されたが、ほとんどが消滅状態にある。

さらに14年にフランス政府が「La Silver Economie」を国策として推進することを決定し、日本にも何度か関係者がやってきたが、近年のテロで休眠状態になっている。

根拠のないキャンペーンより具体的な成功事例が必要

このように社会の高齢化がある程度進むと、どの国でも必ず最初にアクティブシニア市場を狙うキャンペーンが催される。だが、残念ながらそれらは数年で消滅していく。

その最大の理由は「市場」がないからだ。

市場創出には需要と供給の両方が必要だが、多くの場合、需要創出の仕方、需要喚起のアプローチがほとんどなされず、「シニア市場の潜在力は巨大で次の成長市場である」といった根拠のないキャンペーンのみがなされるためだ。

高齢化率で世界一の日本は、すでに具体的な商品・サービスが沢山ある。こうしたキャンペーンではなく、具体的なビジネスの成功事例を一つでも多く積み重ねていくことが最も説得力のあるリーダーシップだと肝に銘じたい。

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