地域の文化資源をツアー商品に

2022年6月24日 日経MJ連載 納得!シニア消費

マイクロツーリズムの深化形「地域文化ツアー」

コロナ禍で最もダメージを受けた業種の一つが旅行業だ。活況を呈していたインバウンド(訪日外国人)客の受け入れや日本人の海外旅行がほぼなくなり、国内旅行も縮小した。緊急事態宣言や水際対策の強化で、長距離の移動が困難になっている。

この苦しい状況で旅行業が取り組んだのがマイクロツーリズムだ。これは自宅からおよそ1時間圏内の地元または近隣への短距離旅行をいう。だが、長距離旅行市場に比べて明らかに市場規模が小さく、旅行市場の本格的回復までの「つなぎ」として取り組んだのが多くの旅行業の本音だった。

ところが、シニア向け旅行最大手のクラブツーリズムの取り組みが意外な展開を見せている。自治体と連携して地域の文化資源を観光と組み合わせた「地域文化ツアー」がシニアに好評だという。

人気の一つは、東京都台東区との連携協定で実現した「江戸の匠・職人を撮るツアー」。参加者は東京・浅草、蔵前の職人を撮影できる。

伝統工芸の工房など一人では通常入ることができない特別な場所にカメラを携えて入れる。千葉県船橋市に住む佐藤卓也さん(70歳、仮名)は「本物の職人さんの息遣いを感じながら仕事風景の瞬間を撮影できたのが刺激的だった」と話す。

人気の秘訣は本物の職人芸体験による知的刺激

牛久シャトー

職人との交流を深めながら、一日ゆったりと写真撮影を堪能できることも人気の理由だ。従来のパックツアーのように観光地を慌ただしく巡るのではなく、伝統工芸の職人芸の瞬間を写真に収めるという密度の濃い体験は、外出機会が減り、テレビやネットでの情報に飽きた人にとって極めて新鮮だった。

茨城県牛久市との連携協定で実現した「牛久ワイナリーツアー」も人気だ。「牛久シャトー」は、1903年設立の日本初の本格的なワイン醸造場。2020年に山梨県甲州市とともに日本遺産に認定された。ここを舞台に「日本ワイン」一日学校“牛久編”として日帰りツアーにしたところ、好評を博した。

ツアーの中身は日本ワイン140年史から始まり、日本初のワイン醸造所の解説、ワイン畑でのフィールドワーク体験まで多岐に渡る。昼食は地場素材の料理とワインテイスティングまである。

東京都新宿区に住む山本千里さん(69歳、仮名)は「ワイナリーやシャトーを見学するだけではなく、日本ワインの歴史について学べたり、ブドウ畑を実際に見学できたりでとても勉強になった」と話す。

ツアーに同行するプロの講師から本格的に学べ、フィールドワークというリアルな体験が本物感を求めるシニア客の心をつかんでいるようだ。

コロナ禍で深堀された地域文化ツアーは外国人にも受ける

クラブツーリズムは約700万人の顧客を持っており、その中でシニアの潜在ニーズも把握している。また、コロナ禍以前から数多くのシニア向けツアーを開発・運営し、蓄積した商品企画力を持つことも大きい。連携先の自治体からも「企画段階から旅行会社の知見を盛り込むことができた」との声が多い。

重要なのは、こうした地域文化ツアーは実は外国人受けするということだ。インバウンドの受け入れが本格的に再開されれば、以前とは違う新たなインバウンド商品として市場拡大の可能性があるだろう。