時代性の変化とシニアの消費行動の変化

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不動産経済 連載 シニアシフトの衝撃 第11回

「時代性の変化」はシニアの消費行動に大きく影響する。今回は直近10年あまりでの時代性の変化とシニアの消費行動のトレンドについてお伝えする。

従来:退職後は、毎日遊んで暮らす
現在:退職後も、週3日は仕事をする

2000年代中頃までは、退職後は仕事をやめてのんびり過ごすライフスタイルが「ハッピーリタイアメント」の理想形だった。首都圏に住んでいる人なら、長野県や栃木県などにセカンドハウスを購入し、退職後は晴耕雨読を目指す人が多かった。また、多くのデベロッパーがアメリカ型の大規模なリタイアメント・コミュニティを模倣し、退職後の夢の生活を謳うゴージャスな自立型有料老人ホームを争って建設した。

しかし、2007年以降のリーマンショックで、こうした不要不急市場は事実上消滅した。さらに、東日本大震災以降に起こったユーロ危機、アメリカの景気低迷、イランの核開発、中東の民主化動向、消費税増税など国内外において先行き不透明感が増大した。また、国内の産業空洞化が進み、雇用調整のため、65歳以前に退職を余儀なくされる団塊世代が増加した。

このような背景から、定年退職直後は多少遊ぶものの、退職後も週3日程度は仕事を続けたいという「半働半遊派」が増加している。シニアの資産の特徴は「ストック・リッチ、フロー・プア」であり、一般にはそれなりの貯蓄を持っている。だが、上述の先行き不透明感から、退職後に自分の貯蓄の元本が減るのを嫌う。

ところが、定年退職後に稼いだお金は貯めようとせず、自分の趣味や孫への小遣いに充てる傾向がある。つまり、退職後に仕事を続ける人は、そこで稼いだ分を消費に回すことに注目したい。

従来:介護・寝たきりは他人事
現在:介護・寝たきりは自分事

シニアの生活上の不安を尋ねる意識調査を実施すると「病気や認知症になり、要介護状態や寝たきりになること」が、必ずトップに挙がる。この傾向は、2000年4月の公的介護保険制度の導入以降、一段と顕著となった。

公的介護保険制度の導入以前は、特別養護老人ホームといった介護施設だけでなく、有料老人ホームですら、ごく限られた一部の人たちの特殊な施設と見られていた。それが、2000年4月以降、民営の有料老人ホームが劇的に増加し、多くの高齢者にとって老後の住処の選択肢の一つになってきた。

また、デイサービスセンターといったサービス拠点も町の至る所で目に付くようになった。さらに、従来は一部の人向けのものだった介護用品も、現在はドラッグストアのみならず、スーパーでもかなりのものが手に入るようになった。また、テレビや新聞・雑誌では老人ホームの選び方から認知症の特集まで頻繁に報道されるようになった。

このような「介護の日常化」によって、従来「自分には関係ない」と思っていた多くの人が、「明日は我が身」と思うようになってきた。こうした時代性の変化が、できるだけ要介護状態にならないための予防意識を高めていることに注意したい。

従来:シニアにはネットは無縁
今後:シニアもネットを使いこなして当たり前

私が1999年に東京、名古屋、大阪で、50歳以上の方を対象に調査した時のネット利用率はたったの3%だった。だが、2001年12月から2010年12月までの年齢階層別インターネット利用率を見ると、明らかに50代以上で一番利用率が増えていることがわかる(図表)。増えている理由はネットを使わなかった人が利用するようになったことと、若い時代に使っていた人が年を取ってもネットを利用し続けていることだ。

現在ではシニアでも60代前半では、ネット利用は当たり前となっている。さらに団塊世代よりも若い世代では、パソコンや携帯電話だけでなく、スマート・フォンやタブレット、フェイスブックなどのソーシャルメディアの利用者も増えている。

従来:シニアは外出が不自由になると買い物難民になる
今後:シニアは外出が不自由になるとネットショッパーになる

シニアのネット利用率は時間とともに上昇する。例えば2025年には80歳のネット利用率は50%を超えると予想される。一方、要介護の割合は、75歳を超えると急上昇するため、80代では人口の4割近くが要介護になると予想される。

従来、高齢者は買い物難民と呼ばれてきた。過疎化が進む田舎だけでなく、東京の都心部でも家の近くにスーパーなどが少なく、何らかの理由で歩行が困難になると高齢者は買い物難民になっていった。

しかし、今後は高齢者になってもネットが使える人が増えるので、外出が不自由になると、むしろ「ネットショッパー」になる人が増えていく。今、高齢者の通販の利用と言えば、折り込みチラシやテレビ通販の利用がせいぜいだが、それがネットにシフトしてゆく。

シニアがネットをどんどん使うようになれば、小売業は転換期を迎える。百貨店のように店頭販売が主流の小売業は今の業態のままでは、シニア顧客は離れていくだろう。

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