スマートシニア・ビジネスレビュー 2004年12月20日 Vol. 62
世界最大の高齢者NPO AARPと有力経済紙ファイナンシャルタイムズの共催で11月17日から19日までロンドンで開催された国際会議に招待スピーカーとして出席しました。
会議のタイトルは「Reinventing Retirement」。
Reinventingとは「再創造」の意味なので、そのまま訳せば「リタイアメントの再創造」。
しかし、わかりにくいので意訳すると、
「社会の高齢化に適応する
新しい老後社会モデルの創出」という意味です。
会議には、欧米の行政・政策担当者、民間企業、
NPOのトップリーダーたちが参加しました。
日本からも民間企業や高齢者団体からの
参加がありました。
議論された主なテーマは、
①人口構成の不均衡(高齢化・少子化)、
②年金危機、
③労働市場の変化、
④リタイアメント・パラダイムの変化、
の4つでした。
3日間に渡る議論を通じて改めて感じたのは、
高齢化に関わる諸問題は、日本固有のものでなく、
先進国共通の大きな課題であることと、
世界最速の高齢化国家 日本が、
世界の注目を浴びていることです。
私が参加したパネルディスカッションでも、
日本の動向に関して多くの質問を受けました。
このパネルの私以外のメンバーは、
イギリスの高齢者NPOとして著名な
エイジコンサーン代表 ゴードン・リシュマン氏、
ベルギーの国会議員で社会保障政策委員会の
委員長であるアネミー・ファン・ドキャスティーレ氏。
そして、モデレータは、AARPの政策・戦略ディレクター
ジョン・ロザー氏でした(写真)。
AARPは、アメリカで国会議員に最も影響力のある
ロビー団体としての顔を持っていますが、
ロザー氏は、そのロビー部門のトップの方です。
AARPが政策に関する発表をするとき、
必ずメディアに登場する有名な方です。
パネルの場でロザー氏から、
特に今年成立した「年金改革法」と
そのコインの裏表である「改正高年齢者雇用安定法」、
およびこれらの制定に伴う国民の反応と
政府の対応への突っ込んだ質問を受けました。
ロザー氏はじめ、多くの出席者にとって
自国の年金制度をどのように持続的にしていくかが、
大きな課題となっています。
今年日本で起きた年金制度変更に関わる
さまざまな出来事は、
彼らにとっても他人事ではないのです。
また、先進国のオピニオン・リーダー158人に実施した
「グローバル・エイジングに関する調査」の
最新報告もありました。
この報告の中で、「先進国が次の20年で直面する
経済課題のトップ3を挙げよ」という設問に対して、
「人口の高齢化」と「少子化」が
最も重要な課題として挙げられていました。
以上のとおり、高齢化に伴う諸問題の重要性は、
先進国での共通認識となっています。
ところが、各国での取り組みに関する情報が
ほとんど共有されていないのが現状です。
とりわけ、日本の状況については、
経済指標などの統計数値以外の情報、
たとえば、企業における高齢者活用の取り組みや
新しいビジネスの動きなどは、
全くと言ってよいほど知られていません。
ジャパン・パッシングと言われるようになってから、
国際舞台での日本の存在感は間違いなく低落しています。
アメリカをはじめ、多くの国は
日本よりも中国の動向に注意を払っています。
しかし、冒頭に述べたように、
高齢化問題に関しては、
日本は依然世界の注目の的です。
こういう事実を日本人はもっと認識すべきでしょう。
ただし、これからの日本は、
世界最速の高齢国家という理由で
注目されるのでは不十分です。
むしろ、社会の高齢化に伴う複雑な諸問題に
果敢に取り組む「智恵と勇気の国民」としての姿を
世界に示すことが必要です。
それが、これからの時代に
日本という国が取りうる
新しい国際貢献のあり方となるからです
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