高齢化が進むアジアと日本の事業者が進むべき道

海外動向

10th Ageing Asia Innovation Forum

来る5月14日、15日にシンガポールの有名ホテルMarina Bay Sands第10回エイジング・アジア革新フォーラム(Ageing Asia Innovation Forum: AAIF)が開催されます。

これに合わせて15日夜には第7回アジア太平洋高齢者ケア革新アワード(Asia Pacific Eldercare Innovation Awards)の授賞式が開催されます。

今年で第10回目を迎えるAAIFに私は2011年の第2回に基調講演者として招待されて以来、毎年講演者として参加し、アドバイザリーボードメンバーも務めてきました。また、2013年から始まったアワードでも日本人唯一の審査員として参加してきました。

リー・クワン・ユー元首相が先んじたシンガポールでのシルバー産業創出

私がシンガポールを初めて訪れたのは2008年1月にシンガポール政府から基調講演者として招かれたSICEX(Silver Industry Conference and Exhibition)でした。

その時に最も印象に残っているのは、シンガポール建国の父、リー・クワン・ユー元首相にお会いしたことです。私の人生において最初で最後のことでした。握手をした時に顔は笑っていても目が笑っていない眼光鋭い方でした。

リー首相による「シンガポールの次の産業はシルバー産業だ」との掛け声のもと、国を挙げてこの分野へ注力し始めました

しかし、当時はまだ日本のようなアクティブシニア市場はシンガポールにはほとんど存在せず、当初立ち上げた国のプロジェクトは軒並み失敗し、徐々に介護・高齢者住宅分野にシフトしていきました。

2011年東日本大震災直後の開催時に初めて参加

ちょうどその頃に始まったのがこのAAIFです。当初はAgeing Asia Investment Forumと呼んでいましたが、第6回から現在のInnovation Forumに名前を変えました。

最初に参加した2011年のフォーラムは忘れることができません。フォーラム直前に東日本大震災があったからです。

2日目の議長を務めていた私は、津波が押し寄せるビデオを含めてプレゼンし、主催者と共に被災地への支援を呼びかけました。

その時に会場に集まった多くの人たちから浄財を頂き、シンガポール赤十字社に寄付したのです。

実はつい最近、宮城県南三陸町に生涯学習センターが竣工しましたが、その寄付者のなかに「シンガポール赤十字社」の名前があるのを知って嬉しくなりました。

それから8年が経過し、このイベントも色々と変わってきました。

内容は当初はリタイアメント・コミュニティのような大型不動産ビジネスの話が多かったのですが、近年はCCRCから小型のシニア住宅、デイサービスから在宅医療まで多岐にわたるようになりました。また、参加国はアジアのみならず、欧州、米国などにも拡大しました。

この8年間で拙著「シニアシフトの衝撃」で予言した通り、シニアシフトの動きがアジアや多くの国々に広がってきたことを強く実感します。

他国に比べて少ない日本企業の参加

一方、あまり変わっていないのは、他国に比べて日本企業の参加が少ないことです。

原因は、これまでも述べてきた通り、大きく次の2つです。

1) 英語での書類作成、プレゼンが不可欠だが、日本の多くの介護事業者が不得手なこと
2) 日本の介護事業者に海外進出しようという意欲が低いため、海外でプレゼンしようというモチベーションが低いこと

2)は結局、多くの事業者が公的介護保険に収入を依存する事業構造のため、海外進出する必要性を感じないことにあります。

1)はその裏返しとして英語を使う必要性がほとんどないため、英語ができる人材も少なく、そうした人材を育成しようという必要性もないことが背景です。

公的介護保険制度に収入を依存できる限りは、これで何の問題もありません。

しかし、これからはそうはいかないでしょう。その理由は日本の人口動態予測を見れば明らかです。このことはこれまで何度もお話してきました。

明るい兆しは、若い世代が少しずつチャレンジしつつあること

一方、明るい兆しは、若い世代が少しずつチャレンジしつつあることです。

私よりも一回り若い医療法人社団悠翔会の佐々木淳理事長などが、このフォーラムへの参加がきっかけで世界に目を向けるようになり、今では海外でも活躍するようになりました。

今後はさらに若い世代の人たちにも、世界を俯瞰するきっかけとして参加してもらえたらよいと思います。

個人のエイジング、社会のエイジングに伴う問題解決を、公的資金をあてにせず、まっとうなビジネスの仕組みで解決する。

このことは公的介護保険がない日本以外の国では当たり前のことなのです。

日本のことをよく知ろうと思ったら、日本以外のことを知った方がよい。閉塞感にとらわれた時にブレークスルーするためには、視野の広さこそが必要なのです。

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