スマートシニア・ビジネスレビュー 2006年7月3日 Vol. 89
去る6月13日にワシントンのAARP本部で
講演する機会をいただきました。
その時の講演録が早速AARPのウェブサイト
Policy & Research に掲載されています。
AARPのサイトは、3500万人を越える50歳以上の
会員だけでなく、世界中の関係者が閲覧するところで、その影響力は相当なものがあります。
掲載された自分の講演録を読んで、
予想外に感服したことが三つあります。
第一に、自分の舌足らずの英語スピーチが、
見事な英文にブラッシュアップされていること。
第二に、あまり詳細を説明できなかった商品や
サービスについて本人が語った以上の
詳細な説明が追加されていること。
そして、第三に、この講演録がAARPにとっての
知的財産として自動的に蓄積されていくことです。
一見何気なく見えますが、
AARPという組織の“凄み”を感じるのは、
実はこういうところです。
AARPにアメリカ以外の各国の高齢化事情を研究する
「グローバル・エイジング・プログラム」ができたのが、
現在のビル・ノベリ会長就任後の2002年のこと。
以来、世界各国の高齢化にまつわる多くの
情報収集活動を行っていますが、
近年とりわけ関心の高い国は日本です。
講演は、日本では講師が一方的に話すのが
一般的なスタイルですが、アメリカではしばしば
聴衆が講師に数多くの質問を浴びせる場となります。
私も数多くの質問を受けました。
しかし、実はその質問者のなかに、
ある役割を担う実務スタッフが何人もいたのです。
それは、こちらの話の趣旨を咀嚼して、
その背景をきちんとリサーチした上で、
読みやすく整理された文章にまとめあげることです。
日本におけるAARPの一般的イメージは、
50歳以上の会員3500万人を有する
世界最大の高齢者NPOであり、
会員向けに保険や旅行商品を効率的に売りさばく
マーケティングマシーンであり、
上院議員が最も恐れるロビー団体である、
といったものが多いようです。
昔から日本の労働団体や高齢者団体を中心に
多くの日本人がAARPを訪れています。
しかし、その大半が「AARP詣」と呼ばれ、
視察という名の実質「観光旅行」にとどまっていました。
このために、前述のような一般的なイメージはあっても、
その組織の具体的な実態がどのようなものかは
理解されていないことが多かったのです。
設立後60年近い歴史があり、本部だけで
2000人以上のスタッフを有する巨大組織AARPは、
その活動規模と実績だけでも
十分に大きな影響力を周囲に及ぼします。
しかし、あらゆる情報収集の機会を惜しまず、
討議をとおして自分達にとって良いアイデアを
貪欲なまでに吸収しようとする姿勢は、
世界最大の巨大組織というイメージとは正反対の、
オープンで謙虚なスタッフの実態なのです。
AARPの力の源泉が何かを知ることができたのが、
今回の講演のもう一つの成果でした。
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