価値ある「非接触化」とは?

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日々の体調を映す「魔法の鏡」

2020年6月19日 日経MJ連載 なるほどスマート・エイジング

連載「なるほどスマート・エイジング」第15回のテーマは「価値ある『非接触化』とは?」

コロナ禍による休業要請が解除され多くの店が営業を再開しました。どの店でも感染予防のためにマスク着用・入店前消毒の義務化、体温計測、客席の間隔を空ける、入店制限などの「非接触化」対策がされています。

しかし、こうした「非接触化」は事業者にとって「やって当たり前」。これだけでは同業他社との差異化にならず、収益面ではコスト要因でしかありません。これからは「非接触」だからこそ価値の上がる商品・サービスが求められています。そのヒントをお話しました。

コロナ禍の休業要請解除を受け、飲食、小売、娯楽店舗などが営業を再開した。

多くの店舗でマスク着用や人数制限、客席間隔の拡大、といった「非接触化」対策がなされている。

カラオケ店では対面にならぬよう室内で客同士が1mの間隔をとる、マイクにマスクを付ける、といったルールが登場した。

多くの店舗が「非接触化」ルールを導入し、安全性をアピールする。だが、ウイズコロナ時代に対策を講じるのは当たり前のことだ。

こうした対策だけでは同業他社との違いはでない。逆に店舗面積当たりの営業効率が悪化しかねない。「非接触化」しながら収益を確保し、他社と違う事業構造が求められている。

面積効率が最大の価値基準だった店舗経営で、今求められているのが新しい価値軸だ。そのヒントは東北大学の吉澤誠教授らが開発した「魔法の鏡」にある。

私たちは毎日、洗面台の鏡を見る。「魔法の鏡」を同じように見ると、鏡に埋め込まれた「非接触センサ」(ビデオカメラ)が作動し、身体を撮影する。映像は瞬時に解析され、心拍数や血圧、自律神経の状態などを定量評価して知らせてくれる。

体調不良の原因の一つとして、自律神経機能の低下が知られている。それを表すとされるのが脈波(みゃくは)から得られる自律神経指標だ。

特に、不定愁訴(動悸、息ぎれ、発汗、めまい、頭痛、吐き気、食欲不振、不眠、手足のしびれなどを訴えるもの)のような自律神経に関係する症状は、自分で客観的に把握するのは難しい。

最近は健康状態を常時モニターできるよう、多くの IT 企業がリストバンドや腕時計型のウェアラブルセンサを開発している。

ほとんどは光電脈波センサや加速度センサのような「接触式」センサで、心拍数や活動度などの健康関連指標を測る。だが、身に付けることが煩わしく、途中で止めています人も多い。

「魔法の鏡」を使えば、センサを身に着けなくても、自律神経や血圧などの状態を測定できる。体調管理を毎日継続するにはこの手軽さがカギだ。

着目したのは血液中のヘモグロビンだ。ヘモグロビンは緑色をよく吸収する。そこで身体映像の緑色成分の輝度情報に目を付け、脈波信号が抽出できることを応用した。

映像から得られる脈波信号(映像脈波)は、指先などに取り付けた光センサから得られる脈波信号(光電脈波)と等しい。従来は光電脈波から計算する自律神経指標を映像脈波から得ているのだ。

コロナ禍で非接触エコノミーと呼ばれる経済活動が新常識となりつつある。だが、通常の「非接触化」対策は事業者にとって当たり前のことだ。

これからは「非接触」だからこそ価値の上がる商品・サービスが求められている。

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