熱中症と加齢の意外な共通点

2020年8月21日 日経MJ連載 なるほどスマート・エイジング

日経MJ 連載「なるほどスマート・エイジング」第17回のテーマは「熱中症と加齢の意外な共通点」

長い梅雨が終わったと思ったら、例年以上の猛暑が続き、熱中症が増えています。熱中症は悪化すると「横紋筋融解症」という症状になり、これが原因で急性腎不全を来します。

しかし、この事実は一般にはあまり知られていません。メディアではほとんど説明されない熱中症重症化の最先端の研究内容をお話しました。
コロナ禍で大きく変わった風景の一つが「マスクの着用」だ。特に買い物や通勤時など多くの人と接する場合、不可欠となった。だが、真夏の炎天下でのマスク着用は大変暑苦しい。

何より熱中症のリスクの高まりが懸念される。新型コロナウイルスの感染は避ける必要があるが、熱中症も重症化すると死に至る場合があり、細心の注意が必要だ。

熱中症は、高温や多湿な環境下で長時間活動することで、深部体温が上昇した際に生じる。はじめは、めまいや倦怠(けんたい)感、筋れん縮などの症状が見られるが、悪化すると「横紋筋融解症」という症状が生じる。

これは高温ストレスにより骨格筋など横紋筋の細胞が融解し、筋細胞内の成分が血中に流出する症状だ。

それが血液を介して腎臓に到達すると尿細管閉塞になり、急性腎不全を来す。だが、熱中症の重症化で腎不全を来すことは一般にはあまり知られていない。

そもそも横紋筋融解症が起きる仕組みは何か。この理解のためには筋肉が運動するメカニズムを知る必要がある。

筋肉は直径10~100μmの筋線維の束から成る。筋線維には数百~数千本の収縮性のある直径1~2μmの筋原線維が詰っている。

筋肉が動くのは、この筋原線維の収縮と弛緩による。これらは筋細胞内のカルシウムイオンの濃度変化により起きる。

収縮時には筋細胞内の小器官(筋小胞体)に蓄えられているカルシウムイオンを細胞内に放出する。一方、弛緩時にはカルシウムイオンを筋小胞体に汲み戻す。

この機構によって収縮と弛緩が巧みに制御されている。ところが、この機構は高温ストレスによる影響を受けやすい。

東北大学の東谷篤志教授らのモデル生物の「線虫(せんちゅう)」を用いた研究で、①高温ストレスにより、筋細胞中のカルシウムイオン濃度が過剰に上昇し、②その結果、「ミトコンドリア」が断片化してその機能が失われ、③筋原線維が崩壊することを明らかにしている。ミトコンドリアは活動のためのエネルギー産生に関わる極めて重要な細胞内小器官だ。

一方、加齢に伴い骨格筋量と骨格筋力が低下する「サルコペニア」という症状が起こる。東谷教授らは、線虫の体壁筋の加齢に伴う筋細胞の変化を調べた結果、ミトコンドリアの断片化が進み、筋細胞の崩壊へとつながることを見出している。

以上よりお分りの通り、熱中症でも加齢でも、筋細胞の萎縮・崩壊は、筋細胞内の「ミトコンドリアの断片化」で生じる。したがって、これを抑制できれば、熱中症の重症化やサルコペニアの予防につながる。

この断片化は前述の通り、筋細胞中のカルシウムイオン濃度の上昇で起こる。カルシウムイオンの筋細胞内への放出は「リアノジン受容体」というイオンチャネルを介して行われる。

東谷教授らはこの受容体を持たない線虫の場合と、その活性を阻害する薬剤を投与した場合に、カルシウムイオンの濃度上昇が抑えられ、ミトコンドリアの断片化と筋原線維の崩壊が抑えられることも明らかにしている。

熱中症対策の基本は高温ストレスを避けること、つまり水分をこまめに摂る、高温環境で活動しない、などだ。

だが、年々夏季の気温が高くなっていること、コロナ禍でマスク着用が必要なことから、やむを得ず高温環境で活動せざるを得ない場合は増えている。

このような状況下で科学的裏付けに基づく熱中症予防の新商品の潜在需要は大きいだろう。

東北大学スマート・エイジング・カレッジ東京

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