資産はあっても使えるお金は少ない アッパーミドル層の動向を知る

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SMBCマネジメントプラス 20145月号

三井住友銀行グループのSMBCコンサルティングが運営するSMBC経営懇話会の会報誌、SMBCマネジメントプラスの特集「シニアビジネスはアッパーミドル層を狙え!」に私のインタビューをもとにした記事が掲載されました。

記事は私へのインタビューをもとにライターの方がまとめたものです。本文は私が監修していますが、記事中のリード文や見出しなどは私が付けたものではありません。必ずしも私の意図と合致していない表現もあることをご承知下さい。

子に資産は残さず使いたいことに使う

SMBCマネジメント _2014年5月号_表紙

高齢者の増加と比例して成長するシニアビジネス市場。2012年に、団塊の世代の最年長者が退職年齢の65歳に達したこともあり、数多くの企業が、シニア市場に新規参入したり、新たなサービスを提供したりしています。

 もっとも、一口にシニアビジネスといっても、シニア層は多種多様です。すべての層に受け入れられようとすると、誰にも受け入れられないことがよくあります。ターゲットを絞り込むことが大切です。

 シニアのなかでも注目したいのが、アッパーミドル層のシニア。定年退職し、主たる収入は年金であるものの、1億円以上の資産を持っている高齢者層です。団塊の世代は「退職金逃げ切り世代」と言われ、こうした人が比較的います。

もっとも、彼らは資産を持っているものの不動産などがメインであることと、高齢期の医療・介護、住宅リフォームなどの出費に備える必要から、自由に使えるお金はそれほど多くはありません。そのため、日々の暮らしは堅実です。食費や日用品などは倹約しますし、ランニングコストを減らすために、自動車を大型車から小型ハイブリッド車や軽自動車にダウンサイジングする人も多くみられます。

一方で、「自分で稼いだお金は、子に残さずに、自分で使う」という考えを持つ人が増えているのも、この層のシニアの特徴です。背景には、相続は得ばかりではなく、親族間のトラブルなど面倒なことも多かったという自身の経験があるようです。

 だから、子に残すことを優先せず、自分がお金を必要と思うことには、数千万円の資産を切り崩して消費する傾向があります。この「必要なこと」を提供できれば、事業機会を得られるでしょう。

 アッパーミドル層は 「解放型消費」にお金を使う

SMBCマネジメント _2014年5月号_目次

では、アッパーミドル層のシニアは、何にお金を使うのでしょうか。キーワードの一つが「解放型消費」です。

 多くの人が50代中盤から70歳前半になると、「解放段階」に入ります。この段階では、「今やるしかない」という気持ちが強まり、仕事や育児などの制約から自己を解放して、いままでと違うことをしたくなる傾向があります。

 例えば、サラリーマンを早期退職して沖縄でダイバーになったり、そば職人になったり、といった具合です。「解放型消費」とは、こうした自己解放のための消費のこと。多くの人はこの消費にはお金を積極的に注ぎ込みます。

アッパーミドルのシニア層に「解放型消費」を起こさせるのは、「三つのE」を満たす商品やサービスです。三つのEとは、「Excited(わくわくすること)」「Engaged(当事者になること)」「Encouraged(勇気づけられたり、元気になったりすること)」です。

旅行はその代表でしょう。最近では、国内外を問わず、高価な旅行の売上が好調です。アッパーミドル層は、これまでさまざまな旅行を経験していますから、「さらにわくわくできること」を求めるわけですね。

JR九州の「クルーズトレイン『ななつ星in九州』」などは、その典型的な例ともいえます。寝室はすべてスイートルームで、ダイニングやバーカウンターなども備えた豪華列車。費用は、最も高い九州全域を3泊4日かけて回る旅で125万円、安いものでも2名1室利用、1泊2日で一人18万円と高価ですが、14年6月まで予約で埋まっているそうです。

この電車に乗っているのは、7~8割がアッパーミドル層です。このような、他にない豪華な旅を用意できれば、人生の残り時間が少ないアッパーミドル層のシニアが集まるわけです。

 また、クルーズ旅行も人気ですが、傾向に少し変化がみられます。かつては、一生に一度、数百万円のクルーズ旅行をすることがもてはやされましたが、最近は、5060万円程度のクルーズに何度も訪れる人が増えています。理由は、友達ができるから。

 船は逃げ場がないうえ、生活水準や趣味の似た人が集まるので、会話がしやすく友達ができやすい。それでリピーターになりやすい。このように、アッパーミドル層同士をつなげる仕掛けがつくれれば、顧客をつかむことができるでしょう。

シニア層になると、海外旅行に行きたくても、体力的に厳しい人も出てきます。そうしたニーズに応え、成功しているのが、クラブツーリズムの「バリアフリーの旅」です。

このツアーの特徴は、体力が衰えたシニアでも快適に旅行が楽しめるよう、細部まで気配りがなされていること。海外旅行でも、「車いすでの参加OK」「リフト付きバスを用意」「トイレ休憩は1~1・5時間に1回」「荷物の持ち運びは不要」「お風呂用のイスと滑り止めマットを用意」など、細やかにサポートしてくれます。

 さらに、有料で、「トラベルサポーター」がマンツーマンでつけられます。サポーターはホームヘルパー2級以上の有資格者で、就寝時の体位交換やトイレ介助、同室での寝泊まりなどもします。要介護になっても、北極でオーロラを見たり、イタリアの世界遺産を巡ったりできるわけです。

 価格は、「ドイツ6日間の旅・42万8000円」「スイス9日間の旅・69万8000円」など。普通のツアーより高額ですが、「これが一生で最後の旅行かもしれない」となれば、惜しみなくお金を払うわけです。団塊の世代でも、徐々にこのような人が増えてくるでしょう。

 「三つのE」を満たすことは、旅行だけではありません。趣味に関する消費も同様です。「1台200万円のアンプを買う」「ハイキングの道具に何十万円もかける」アッパーミドル層は珍しくありません。また、おしゃれな洋服にお金をつぎ込む人もいます。

 「三つのE」を満たせる商品・サービスは色々と考えられます。それを上手に提案できれば、アッパーミドル層のシニアの心が動くはずです。

子どもには迷惑をかけたくない

SMBCマネジメント _2014年5月号_3-3

もう一つ、アッパーミドル層のシニアが出費するのは、不安・不満・不便といった「不」の解消です。

 なかでも、「健康不安」「経済不安」「孤独不安」の三大不安解消のためには、それなりの出費は仕方ないと思っています。

 有料老人ホームなどを早めに確保する動きは、その現れの一つでしょう。入居一時金を払って、権利を持っているものの、実際には入居していない例もあります。

毎月、数万円の月会費を払うことが必要ですが、それでも近い将来の終の住処を確保したいわけですね。東京・築地の聖路加国際病院にそばの「聖路加レジデンス」などには、こうした入居者が多いそうです。

このような背景には、「自分が要介護に状態になっても子どもに迷惑をかけたくない」という思いも強いようです。団塊の世代は、自分が親の介護で苦労した人が数多くいます。そうした経験をしているだけに、「自分の子どもには同じ苦労をさせたくない」気持ちが強い。それが理由でお金を使うのです。

こうしたアッパーミドル層のシニアの存在を踏まえると、今後、注目されるサービスの一つが、株式会社ダスキンの「ホームインステッド」です。これは、シニアの身の回りの世話をするサービスで、病院・買い物の付き添いや家事手伝い、話し相手など、介護保険では賄えないサービスを手がけます。

1回の最低料金は2時間で6000円(税別)。決して安くはありませんが、こうしたサービスのおかげで、認知症や要介護状態になるのを予防できるとすれば、トータルで見れば高くはないとも言えます。平均すると、月に5万円程度利用する人が多いそうです。今後、団塊の世代の高齢化で、この種のサービスはさらに伸びるでしょう。

最近のアッパーミドル層のシニアは、仕事を続ける人が増えていますが、仕事は「健康・経済・孤独」の三大不安を解消するのに最適です。規則正しい生活をして体を動かしていれば、健康維持につながりますし、月数万円でも家計の足しになる。また、孤独の解消にもなります。

ただし、課題は自分の希望と仕事とのミスマッチ。現役時代は大企業で華々しい仕事をしていたのに、それに見合った仕事がないというのです。大学講師や中小企業支援を希望する人が多いようですが、上から目線で自慢話をして煙たがられるため、その需要は少ないのが現状です。

そうしたアッパーミドル層のシニアを生かせる仕組みを生み出せれば、ビジネスとして成り立つことでしょう。 

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