この10年でネット通販は急拡大 ますます増大するコールセンターの役割

IMプレス3月号 特集 好機あり!シニア・マーケット攻略法

I.M.press_2013年3月号_表紙_2シニアビジネスに参入する企業は増えているが、苦戦事例も少なくない。その理由はどこにあるのだろうか。シニア世代の特徴やニーズ、求められているコミュニケーション・スキルなどについて、『シニアシフトの衝撃』を著した村田 裕之氏にお話をうかがった。

 

■中長期的な視点でじっくり取り組むことが重要

 

――まず、村田さまとシニアビジネスとのかかわりについてお聞かせください。

 

村田:私は15年前からシニアビジネスに着目し、これにかかわる新規事業の企画・立ち上げ・支援を実践してきました。アクティブシニア、スマートシニアという言葉を作ったのも私です。

 

――お仕事をなさる中で、高齢社会の現状をどのようにご覧になっていらっしゃいますか。

 

村田:2010年の日本の人口構成を見ると、6065歳に山があり、1664歳の生産年齢人口よりも高齢者人口が増加する傾向にあります。

 

総務省統計局の「家計調査報告 平成22年」(2010年)によれば、1世帯当たりの貯蓄から負債を引いた正味金融資産は60代で2,093万円、70歳以上で2,145万円です。世帯数は60代で1,083.6万世帯、70歳以上で1,191.1万世帯ですから、60歳以上の正味金融資産の合計は4822,884億円ということになります。

 

もちろんこれがすべて消費支出に回るわけではありません。しかし、シニアのニーズに合った商品やサービスがさらに徹底して訴求されれば、これらの金融資産が消費に回り、経済を活性化する可能性は十分あると考えられます。

 

現実に高齢社会が到来し、昨年あたりからシニア・マーケットに目を向け、取り組みを始めている企業が増えています。その一方で苦戦している事例も多く見られます。

 

I.M.press_2013年3月号_4-1_2――苦戦している理由は何でしょうか。

 

村田:大きく2つの場合があります。1つは、新規事業立ち上げのノウハウがなく、苦戦する場合です。この場合は、長い目で見て事業を育てていこうという姿勢がないために、新規事業の立ち上げがうまくいかないケースです。ほとんどの企業ではシニア・マーケットをターゲットにすること自体が初めてなので、新規に事業を立ち上げることになります。

 

ところが、そういった経験のない人員が担当者としてアサインされて、とんちんかんなことをやり、成果を出せずに、12年が経過したところで結局、経営者からストップがかかるという例が非常に多いのです。シニア・マーケットを知らない上に、新規事業を立ち上げるスキルもないので、失敗の確率が高まるわけです。

 

逆に成功させようと思ったら、新規事業の立ち上げで実績のあるやり手の担当者をヘッドに据え、かつ、経営陣がその担当者を支援していく必要があります。ところが多くの企業では担当者が2年ぐらいで交替になり、せっかくうまくいきかけたところで頓挫してしまうことも少なくありません。

 

中長期的な視点で取り組んでうまくいった例としては、私もお手伝いさせていただいた(株)NTTドコモの「らくらくホン」が挙げられます。「らくらくホン」は国内で延べ2,200万台の出荷を記録し、スマートフォンが登場する以前の一時期には、毎月必ず、ケータイ売り上げベスト102機種がランクインするようにまで成功しました。

 

ところが「らくらくホン」は、1998年の発売から当初2年間は、あまり売れていなかったのです。しかし当時はケータイ市場そのものが右肩上がりだったことと、短期的に利益に結び付かなくても社会的に意義のある製品には力を入れていこうという経営者の判断から、撤退せず、辛抱強く少しずつブラッシュアップを重ねていくうちに、大ヒット商品になったのです。

確かに今はどの企業も、短期間で結果を出すことが求められている厳しい時代です。しかしマーケットは刻々と変化しますから、今すぐに売れるものだけを追いかけていると、仮に短期間に利益を上げることができたとしても、いずれまた一から出直しを迫られることになります。

 

だから一方では、中長期視点に立って次のマーケットがどうなるかを見据えた施策を講じていく必要があると思います。例えば介護保険制度は3年ごとに方針が見直されるので、訪問介護サービスなどでは、前期は大黒字だったものが今期は大赤字といったことが頻繁に起こります。体力のない企業はすぐつぶれてしまいます。

 

時代によって、重点を置くべきもの、顧客が求めているものはどんどん変わりますので、それを見誤らないよう、常に中長期な構造変化に目を向け、手を打っておくことが重要です。また、ITの進歩、お客さまのITリテラシーの進化によって、CRMの方法論も変化していきます。常に変化を読み、それに応じて改善を続けていく以外に成功の道はありません。

 

■シニア層は最も多様性に富んだ世代

 

――シニアビジネスが苦戦しているもうひとつの場合については、いかがですか。

 

村田:2つ目の場合は、マーケットの多様性に起因するアプローチ方法の誤りによるものです。シニア層の消費行動は非常に多様で、ひとくくりでとらえることはできません。商品やサービスへの需要は、お客さまや、お客さまの回りに何か変化が起きた時に生まれます。

 

ところが、シニア層の場合、その変化の種類が多く、かつ変化が訪れるタイミングが人によってバラバラなのです。ですから、人数は大きくても、マスマーケティング手法は通用しにくいのです。

 

需要を生み出す変化で重要なものは5つあります。1つ目は、先ほどの「らくらくホン」に当てはまるように、老眼になった、耳が遠くなった、握力が衰えてきたといった「身体の変化」です。2つ目は定年退職など「個人のライフステージの変化」です。

 

3つ目は子育ての終了、住宅ローンの終了、親が要介護状態になる、親が亡くなるといった「家族のライフステージの変化」。4つ目は全共闘、ビートルズ、アメリカ文化といった10代、20代に大きな影響を受けた世代特有の嗜好性が深まったり薄まったりする、「嗜好性の変化」。5つ目が韓流ブーム、ガーデニング、ビーズ、震災後の省エネといった社会的な流行、つまり「時代性の変化」です。

 

5年前に団塊の世代が還暦を迎えるということで、「2007年問題」と騒がれたことは記憶に新しいですが、実際には何も大きな問題は起きませんでした。2012年にはその団塊の世代が65歳になっていよいよ定年退職を迎えると言われていますが、彼らは決して65歳で一斉に退職しているわけではありません。

 

さらに、5年前には悠々自適な暮らしを求めて退職する人が多かったのですが、今はむしろ働き続けたいと考える人も増えています。円高が進んで不況になり、働く場が減っているとは言え、子どもの就職難のため大学院に行ったり留学したりして学費がかかる。加えて、自分たちの老後の資金も蓄えたいので、稼げるうちは稼ぎたいというわけです。しかしその一方で、65歳の定年を待たずに退職する人たちもいます。

団塊の世代が大学受験を迎えた時には予備校産業が栄え、就職して結婚し、所帯を持った時には住宅ブームを起こし…と、彼らはこれまで一斉に人生の転機を迎えることで新しい大きなマーケットを作ってきました。しかし、今後はそうではないのです。

 

――団塊の世代は国内外の新しい文化を貪欲に取り入れてきた世代でもありますね。

 

村田:先ほど述べたように、世代特有の嗜好性とその変化は、新たな需要を生み出す変化の一つです。

特に趣味の分野の商品は、これがカギになります。

 

例えば昨年、リカちゃん人形ファミリーにおばあちゃんが登場しました。リカちゃんが発売された当時、リカちゃんと同じ11歳だった女の子が、56歳のおばあちゃんの年齢になって、「孫娘と一緒に遊びたいのに自分の人形がない」という声が寄せられたため、これに応えて作られたのです。

 

また、団塊世代ではありませんが、仮面ライダー世代をターゲットとしたイベントには、40代後半から50代の男性が子どもを連れてやって来て、子どもと一緒に遊ぶためにキャラクター商品を買って行きます。

 

ただ、いくら好きなキャラクターがあっても、そればかりにお金を使うわけではありません。親が要介護になれば、当然、関心はそちらに移ります。世代特有の嗜好性は、同じ世代に共通に響く要素ではあるけれども、それだけでシニアになる団塊世代全ての消費行動を説明できるほど単純ではないということです。

 

――世代だけではくくれないということですか。

 

村田:実は、ジェネレーション・マーケティングの本家であるアメリカでは、既にジェネレーション・マーケティングは事実上崩壊していると言われています。そのきっかけはリーマン・ショックでした。

 

本当に欲しいもの、必要なものは何かと考えた時、自分にとって、あるいは、自分の家族にとって価値のあるものは買うけれども、そうでないものは要らない、つまり、ジェネレーションではなく、個々人の価値が重要だというところに行き着いたということでしょう。

 

――シニア層のさらなる消費を促すには、どういったアプローチが必要だとお考えですか。

 

村田: 3つの「E」がキーワードだと思っています。1つ目は「わくわくすること(Excited)」。人間はいくつになってもわくわくしたいのです。2つ目は「当事者になること(Engaged)」。特に男性は、巻き込んで当事者にすると、積極的に味方をしてくれます。

 

これで成功しているのが、旅行会社のクラブツーリズム(株)です。同社は無料の『旅の友』という会報誌を月に一度、配布するエコースタッフと呼ばれるスタッフを約8,000人、組織しているのですが、この人たちはもともと同社の顧客です。

 

同社は1980年代後半から旅行業界の先陣を切って顧客データベースを作ったCRMの権化ですが、この顧客情報を人海戦術で収集しているのがエコースタッフです。会報誌を届ける時に、そのお宅の娘さんが結婚したといった情報が口コミで入ってくるわけです。

 

3つ目は「勇気づけられたり、元気になったりすること(Encouraged)」です。例えばフィットネス・クラブに通って身体が元気になれば、気持ちも明るくなって外に出掛けるようになり、消費行動が活性化します。

 

■シニア層とのコミュニケーションの方法論がコールセンターの大きなテーマに

 

――シニア層とのコミュニケーションにおいては、どのような工夫が必要でしょうか。

 

村田:医学的な統計データで見ると、人間はおおむね75歳が曲がり角です。これを境に治療にかかる率や要介護率、認知症の発症率などが急増するようになります。身体に何らかの不具合が出て自由に外出できない高齢者が増えてくると、間違いなく通販が今以上に利用されるようになるでしょう。

 

私の推定による2025年の女性人口構成では、80歳女性の場合、約3分の1が要介護者ですが、ネット利用率は50%を超えています。2025年の80歳の人は、多少足が不自由になって外出が不便になっても多くの人はネットで買い物ができるのです。だから、その頃は、今とは桁違いにネット通販の利用者が増えているでしょう。しかしすべてがネットで完結するわけではないので、これに伴ってコールセンターの役割がますます大きくなっていくと考えられます。

 

利用者の年代が上がると、耳の遠い人、入れ歯で言葉が不鮮明な人も増えてきます。そういった方々とは、電話の音声のみでコミュニケーションをとるのは難しいですが、対面で真正面から話をすると、唇の動きが読めるのでコミュニケーションが取りやすくなります。

 

ですから今後は、Skypeなどを活用したテレビ電話の導入が進んでいくと考えられます。コールセンターには、電話とも対面とも違う、テレビ電話対応のノウハウを開発・蓄積が必要でしょう。

 

また、シニア層特有の性向というものもあります。例えば年配の男性の中には、大きな声で居丈高にクレームを言ってくる人がいます。そういう時にはまず相手に言いたいだけ言わせて、ある程度ヒートダウンするのを待つのが得策です。燃えるものは燃やしてしまうという、石油化学プラントで火事が起きた時の対処法と同じです。そういった対処のしかたは、人生経験の浅い若い人にはなかなか難しいかもしれないので、多少訓練が必要でしょう。

 

シニア層とのコミュニケーションの方法論は、これからのコールセンターの大きなテーマになると思います。老年心理を考慮したコミュニケーションの方法を、実践を通じて体得していく必要があります。

 

――ネット通販の利用拡大に伴ってコールセンターの役割が増すという意味は、シニア層はネット利用率が高いと言っても、必ずしもITリテラシーが高いわけではないので、ネットの使い方についての質問などが増えるということでしょうか。

 

村田:現時点ではそのような意味合いが強いかもしれません。しかし10年ぐらい先のことまで考えると、それだけではなくて、コールセンターに求められる機能そのものが進化・拡大していくのだと思います。

 

ITのサポートという面では、今後、スマホやPCと比べて視認性、操作性に優れたタブレットが一層、低価格化し、普及が進むと思われます。それでもサポートし切れない部分を、コールセンターが音声やテレビ電話での対面機能で補っていくことになるのでしょう。

 

一方のコールセンターに求められる機能の変化・拡大というのは、まさにCRMという観点から、シニア層のお客さまとの関係性を深め、真のニーズを探るという役割の増大です。その時に問われるのは、電話に対応するコミュニケータの人間的な力量です。ハイレベルな対応によって、お客さまと深い対話をすることのできるコールセンターは、企業にとって大きな武器になると思います。

 

現実には、受注などの業務を機械的・事務的に淡々とこなすセンターと、クレーム対応などを含む顧客との対話にじっくり取り組むセンターの2つに、はっきり分かれていくのだと思います。シニア向け雑誌の出版や通販を手掛けるいきいき(株)は、それを実行しています。新規申込や契約更新などを受け付けるセンターはアウトソーシングし、クレームなどには場合によっては編集長が直々に対応しています。

 

11件の電話に対応するのは手間がかかりますが、これに真摯に取り組むことによって、コールセンターは最強のマーケティング・リサーチ・センターになります。単に処理すればよいという考えでは、深いニーズは聞き取れない。つまり大きな機会損失になっています。これを経営者がどう判断するかですね。

 

■ショッピングの楽しさを追求したネット通販が望まれる

 

――シニア層のソーシャルメディアの利用は増えていくと思われますか。

 

村田:現状のレベルのFacebookTwitterなどのソーシャルメディア上のコミュニケーションは、質が浅いですね。65歳以上の層で、現状でのソーシャルメディアでのコミュニケーションに付加価値を感じる人は、100人中2人ぐらいだろうと思います。コミュニケーションに関わっている複数の人間同士が深く共感しやすいインターフェイスや支援機能が望まれますね。今後の進化を期待したいところです。

 

――シニア層の利用が増えることで、ネット通販のあり方も変わっていくのでしょうか。

 

村田:シニア層のネット通販へのニーズには2種類あるでしょう。ひとつは、生活必需品などを、できるだけ簡単・便利に買いたいというニーズです。もうひとつは、単にモノを手に入れることだけでなく、ショッピングそのものを楽しみたいというニーズです。

 

例えば高齢者施設などに入所していて、外出したい時に自由に外出できない人たちは、リアル店舗でのショッピングを擬似体験できるようなネット通販を待ち望んでいるはずです。これは安っぽいCG3次元ショッピング・モールではだめです。画面を通して、百貨店のベテランのコンシェルジュと「○○さん、お久しぶりです」「最近なかなか行けなくてごめんなさいね」と対話ができたりすれば、満足度が高いでしょうね。

 

――団塊の世代はマンガを読んで育ってきた世代ですから、ゆくゆくはコンシェルジュのアバターなども登場するかもしれませんね。本日はありがとうございました。

 

 

『シニアシフトの衝撃』

 

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