スマートシニア・ビジネスレビュー 2005年11月1日 Vol. 76

ann-wrixon私は99年9月15日敬老の日の朝日新聞に
「スマートシニアと新市場」という論説を発表し、
次のとおり述べました。

ネット先進国の米国では、シニアのネット人口が
1300万人(ネット人口の16%)に上る。


↑米国シニアネット中興の祖、アン・リクソン

そして、ネットを縦横に活用して情報収集し、
積極的な消費行動をとる先進的な「スマートシニア」が増加している。

このスマートシニアは、
①日に一度、毎週十時間以上ネットを使う、
②若い世代よりネット通販に積極的である、
③市場で自分の声を積極的に発信する、
という特徴が米国での調査で分かっている。
わが国でもこのようなスマートシニアが増えている。

今後、このスマートシニアは先駆的な消費者として
多数の一般シニアの消費行動に影響を与え、
アクティブシニア市場をリードしていくと推察される。

この小論は、6年前のもので、
内容は今にしてみれば稚拙なものですが、
その時点での予感を述べたものでした。

それから6年たったいま、現実はどうなったでしょうか。

“賢い消費者”としての「スマートシニア」は、
確かに増えたと思います。

ネットを使ってお気に入りの旅行商品を選択し、
株の投資を自在に行い、地方物産品を購入して楽しむ。

さらには、有料老人ホームの選択すら
ネットを利用する人も増えています。
こうした利用法は、6年前には予想もしませんでした。

一方、自らホームページを開設し、
自分の意見を掲載するシニアもかなり増えました。

私の親しい知り合いの江上尚志さんは、
会社を退職してから、「
方円の器」というサイトで、
こうした情報発信を積極的に始めた人の一人です。

江上さんは、現役ビジネスマン時代から、
障害者の社会参加を支援する活動に携わってきた
行動派で、その発言には筋の通ったものがあります。

江上さんは、従来型のHTMLを利用されてますが、
最近は、特にブログの普及が後押ししたせいもあり、
情報発信の敷居が下がりました。

これまで言いたかったことがあっても、
言える場がなかったシニアにとっては、
ネット環境の整備はそうした場作りの
強力な追い風となりました。

しかし、この反面、言いたいことを言うだけで
終わっているサイトも多いようです。

また、自分独自の意見がなく、
他人の言っていることをネット上でかき集めて、
整理しているだけのサイトも少なくありません。

インターネットの黎明期は、「リンク集」をつくるだけで
重宝がられた時期がありました。

しかし、グーグルのような検索エンジンが発達した現在、
こういうリンク集の価値は極めて低くなっています。

したがって、他人の発言をかき集めて整理すると、
何か付加価値が上がるという感覚は、
6年は時代に遅れています。

かつて、
「テレビの出現と共に『一億総白痴化』が進む」
と言ったのは、大宅壮一でした。

これにならうと、
「ネットの出現と共に『一億総評論家』が増える」
というのが、最近の状況だと思います。

何かもっともらしいことをネットで発信すれば、
何かよいことをした気になる。
ホームページやブログを立ち上げ、
そこに何か書き込むことで満足してしまう。

こうした「自己満足」が、
自らを思考停止に落とし込み、
自分の行動を止めてしまうのです。

本格的な高齢社会に突入したいま、
求められているのは、口先ばかりで何も行動しない
評論家シニアではありません。

現役時代のしがらみがなくなった退職後こそ、
真の「発言と行動の自由」をもてる
絶好の時代ではないでしょうか。

賢く消費する年配者が、
「スマートシニア」なのではありません。

発言と行動の「自由と責任」を持ち、
一歩前に前進するシニアこそ、
本当の「スマートシニア」だと思います。

そして、こうした「スマートシニア」の後姿を見ると、
現役世代である私たちも元気が湧き、
もっとがんばろうという気になるのです。

●関連記事

スマートシニアと新市場
(朝日新聞 1999年9月15日)

スマートシニアがけん引する21世紀のシニア市場
(Japan Research Review 1999年9月号)