11月5日 クラブツーリズム 旅と人生を楽しむ スマート・エイジング術
自分らしさは「他者との関係性」で規定される
「自分らしく生きる」というのは一見簡単そうで、実は非常に難しいテーマです。そもそも「自分らしさ」とは何でしょうか?
『新約聖書』に登場する有名な女性サロメは「人間は7枚のベールをかぶっている。6枚目のベールまでは脱ぐが、7枚目のベールは自分ですら脱がない」と言っています。つまり、本当の自分は自分ですらわからない、という意味です。
このように自分らしさというのは「自分ではわからない性質のもの」のようです。
ところが、あなたの友人や知人から「あ〜、そういうところが○○さんらしいわね」などと言われることはありませんか?
どうも自分らしさというのは、自分自身は気がつかないけれども、他人は気がつくという性質があるようです。
つまり、自分らしさとは、他人がいて初めてその存在を認識されるものと言えます。別の言い方をすれば、自分らしさは「他者との関係性」によって規定されるとも言えます。
老夫婦演奏者の「その人らしさ」が形成される過程
アメリカ・アイオワ州の片田舎に住んでいるマルロー・コーワンさん(取材当時91歳)とフランセス・コーワンさん(同86歳)夫妻は、マルローさんが90歳を過ぎてから、その名を全米に知られるようになりました。
音楽演奏などに使用する鐘を製作する鐘職人のマルローさんとピアニストのフランセスさんは、メイヨー・クリニックという有名な病院のロビーで、ボランティアとして定期的に演奏会を開いていました。
単なる真面目な楽器演奏とは異なる茶目っ気たっぷりの老夫婦の演奏会が徐々に評判になり、夫妻はいつしか「メイヨー・クリニックのロックスター」と呼ばれるようになりました。
彼らが演奏するときには毎回数百人の観客が病院を訪れるようになったのです。ちなみに、彼らが演奏していたのはロックではなく、クラシックでした。
すっかり病院の名物となった夫妻の演奏の様子を知人が動画サイトのYouTubeに投稿しました。すると、この動画はネット上の口コミで瞬く間に広がり、1カ月の間に800万人を超える人がその動画を観るというセンセーションを巻き起こしたのです。
コーワン夫妻の名は、全米ですっかり有名になり、その後CBSやABCなど全国ネットのテレビ番組でも紹介され、「理想のおしどり老夫婦」として一躍、ときの人となりました。
ここで重要なのは、コーワン夫妻が全米の注目を集めるようになったことではありません。
メイヨー・クリニックのロビーの観客やYouTubeの視聴者という「他者との関係性」によって、理想のおしどり老夫婦としてのイメージ、つまり「コーワン夫妻らしさ」が形成されていったことが重要なのです。
一方、他者との関係性によって自分らしさが規定されるためには、自分の内面から「何か湧き出るもの」が必要だと私は考えます。
それは、一言でいえば「情熱」です。それが好きで心底没頭するとき、寝食を忘れて取り組んでしまうほど夢中になれるとき、人は情熱を発します。
実はコーワン夫妻の場合も、マルローさんは鐘の製作という仕事を通じて、フランセスさんはピアノの先生としてやはり長年生徒さんの育成にかかわり、音楽に対する情熱は相当なものがありました。
自分らしさを他者が認識するには「情熱」が必要
ここまでの話で、自分らしさというのは他者との関係性で規定されるということがお分かりいただけたと思います。
ただし、そのためには自分の内面から湧き出る「情熱」が必要なのです。自分がそのことに心底没頭できるとき、寝食を忘れて取り組んでしまうほど夢中になれるとき、他人から見て一番輝いて見えるのです。
では、どういうことなら、自分の情熱を注ぎこみ、心底夢中になれるのでしょうか?
それは、「自分の好きなこと」です。
したがって、自分らしく生きたいと思うなら、自分の好きなことに、とことん取り組むこと。そして、他者との関係性をよくすること。つまり、自分の周囲にいる人たちとよい人間関係を築くことが大切なのです。
こういう話をすると、特に男性の方には「俺には好きなことがないんだよ」と言われる方もいらっしゃいます。
真面目な男性には、仕事一筋でやってきて、退職したらやることがない、趣味もない、行くところもない、何をしたらいいかわからない、という方が結構いらっしゃいます。
でも、気にする必要はありません。必ず何か一つは好きなことがあるはずです。ただ、これまでそれに徹底的に取り組むきっかけがなかったり、自覚が薄かったりしただけなのです。
まだこの瞬間、好きなことがないと思っている方は、まずそれを見つけるところから始めてみてはいかがでしょうか。クラブツーリズムにはそのためのきっかけが山ほどあります。