なぜ、今、シニアビジネスが求められるのか

解脱6月号 連載 スマート・エイジングのすすめ 第6回

denmark「シニアビジネス」という言葉を聞くと、年配者には自分たちが汗水たらして貯めてきた財産を騙し取ろうとする悪どい商売をイメージする人も少なくありません。

しかし、私が「シニアビジネス」という言葉を使う理由は、超高齢社会の諸問題の解決を補助金などの国費投入でなく、健全な収益事業、つまり「ビジネス」で行なうべきと考えているからです。なぜなら、日本のような超高齢社会では、高度成長期に導入された国費投入型の社会保障政策は、もはや持続可能でないからです。

国費のもとは、私たちの血税と国債、つまり借金です。借金の先送りは次の世代に膨大な「ツケ」を残すだけです。しかし、次の世代に残すべきなのはツケではなく、私たちが出しうる限りの「知恵」のはずです。

低成長段階の経済成熟国が、超高齢社会に突入したいま、「国費投入型の福祉」を「健全な収益事業」に極力置き換えていくことが必要です。そのためには「健全な収益事業」としての質と量全体のレベルアップが必要です。そのレベルアップのための「知恵」こそ、私たちが次の世代に残すべきものです。

21世紀の日本は、何をもって世界から尊敬される存在になれるのでしょうか。世界が注目する世界最速の超高齢国家・日本。その日本が世界に先駆けて高齢社会に相応しい商品・サービス・制度を次々と生み出していく。それらが素晴らしいものであることで、同じように高齢社会の諸問題に直面する多くの国から一目置かれるようになる。

ITビジネスの分野では無理でも、シニアビジネスの分野ではそういう存在になれる可能性が十分にあるのです。

しかし、私たちがシニアビジネスへの取り組みで目指すべきことは、単に商品やサービスが素晴らしいことだけで、世界から一目置かれることにとどまってはいけません

バブル経済期の80年代後半から90年に日本の経済力は史上最高に達し、世界中から注目されました。当時それまで勤めていた会社を退職し、フランスに自費留学していた私は、留学先の学校で日本経済について数多くの質問を受けました。

ところが、そのとき注目されたのは、洪水のように輸出した「メイド・イン・ジャパン」の製品であり、残念ながらそれを生み出した日本人ではありませんでした
このことを考える時、私は、かつて内村鑑三が語った次の言葉を思い出します。

「金を儲けることは、己のために儲けるのではない、
神の正しい道によって、天地宇宙の正当なる法則にしたがって、
富を国家のために使うのであるという実業の精神が
われわれのなかに起こらんことを私は願う」

(後世への最大遺物・デンマルク国の話 内村鑑三 岩波文庫より)

今や当たり前となった「企業の社会的責任」という言葉を使うまでもなく、今から100年以上前に内村が語ったこの言葉に「実業の精神」つまり「ビジネスの精神」の意味が込められていると思います。「シニアビジネス」とは、金持ち、時間持ちの年配層をターゲットに儲ける事業をやるという意味では決してないのです。

日本のシニアビジネスが世界の注目を浴びる時、それが単に商品・サービスの素晴らしさだけが、注目されるのであってはならない。それらを生み出し、経営する日本人の「精神」こそが、真に注目され、尊敬されるべきなのです。

それが、内村鑑三が言わんとした言葉の意味です。そのための「礎」を残すことが、今を生きる私たち大人の責任であり、後世への最大遺物になるのです。

成功するシニアビジネスの教科書