解脱9月号 連載 スマート・エイジングのすすめ 第9回

150831gedatsu私は99年9月15日の朝日新聞で、ネットの時代の新たな高齢者像である「スマートシニア」というコンセプトを提唱し、今後の増加を予想しました。当時の定義は「ネットを縦横に活用して情報収集し、積極的な消費行動を取る先進的な高齢者」でした。

それ以来、「スマートシニアが増えていくと、商品提供側はいろいろ工夫をしないといけないから大変になる」という話をしてきましたが、15年経って予想通りになりました。スマートシニアが増えた結果、それまで「売り手市場」だった多くの市場が「買い手市場」になりました。従来の売り手の論理が通用しにくくなっています。

製造業で言えば、従来のように大量生産して、大量に流通すれば売れる時代ではありません。常に買い手の変化を敏感に察知し、刻々と変わる買い手のニーズに柔軟に対応し続けないといけない時代になったのです。

2020年は東京で再度オリンピックが開催される年として多くの人が認識しているでしょう。しかし、シニアの消費行動の観点では2025年が大きな節目の年となります。その理由は、団塊世代の最年少者が75歳を超え、後期高齢者の仲間入りをするからです。

後期高齢者という言葉は評判が悪いですが、医学的にはそれなりの意味を持っています。というのは、75歳を境に、病院で治療を受ける受療率、要介護認定率、認知症出現率などの増加ペースが急上昇するからです。つまり、75歳を過ぎると要支援・要介護者の割合が一気に増加するのです。

図は2025年の女性人口構成と要介護人口の予測数です。男性人口もほぼ同じような推移をたどります。そこにネット利用率の予測を合わせてみました。たとえば83歳では要介護者とそうでない人の割合がほぼ50%ずつ。

そして、ネットの利用率は45%に達します。45%という数値は、IT機器普及の観点から言えば、ほとんど普及段階といってよいでしょう。つまり、2025年には、高齢者でもネット利用が当たり前の時代になるのです。

すると、流通業界において高齢者のネット通販利用が劇的に増えることが予想されます。2015年現在、高齢者の通販利用と言えば、折り込みチラシやテレビ通販、カタログ通販の利用が大半です。しかし、それがネットにシフトしていくのです。

シニアがネットをどんどん使うようになれば、小売業は転換期を迎えます。百貨店やスーパーのように店頭販売が主流の小売業は、今の業態のままではシニア顧客が徐々に離れていくでしょう。

これに対し、イオンやイトーヨーカドーなどの大手流通業では、「オムニチャネル戦略」と称して、店舗とネットとの連携に本腰を入れています。「オムニチャネル」とは、店舗とネットの販売チャネルの融合のことを言います。これには、販売チャネルの先にいる顧客の端末形態も含みます。

一方、今後シニアが使う端末の主流はタブレットになりそうです。スマホは画面が小さくて扱いにくいし、パソコンは設定や接続が面倒だからです。こうした予想を見越して、一部の通販会社は、来る2025年に向けて着々と準備を進めています。たとえば、ある通販会社のタブレット用画面は、きめ細かいナビゲーションシステムを備え、ワンクリックで商品が買える使い勝手のよさがあります。

こうしてみると、オムニチャネル戦略とシニアシフト戦略とは、実はコインの裏表の関係であることがわかります。


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