5年前とどう違う?団塊世代、退職後の消費行動

2012年7月10日号 シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第64回

5年前とは違う団塊世代の退職後消費行動

団塊世代の最年長者が65歳に達する今年2012年は、5年前に起こった団塊ブーム再来の感がある。しかし、注意深く見ると、いくつかの点で5年前とは状況が異なっていることに気が付く。

電通が529日に発表した「退職リアルライフ調査~団塊ファーストランナーの65歳からの暮らし」にその一端が見られる。電通は7年前の0510月に同様な調査を発表しており、この両者を比較すると団塊世代の退職後の消費行動がこの7年間でどう変わったか、その違いがよくわかる。

まず目に付くのは、05年調査で消費行動の上位にあった「パソコンの購入」「車の買い替え・新規購入」「携帯電話の新規加入」が今回の調査では見られなくなったことだ。

今回の調査で「パソコンの購入」「携帯電話の新規加入」などのIT消費が見られなくなった理由として、この世代は現役時代にすでにこれらのIT機器を日常ツールとして活用しているために、退職をきっかけに新たに購入する必要性が少ないためと考えられる。

一方、「車の買い替え・新規購入」については、需要はあるのだが、購入時期が必ずしも退職時期とは一致しなくなっていることが05年の調査結果との違いだ。

実は昨年団塊世代に良く売れたのはトヨタ・プリウスなどのハイブリッド・カーや軽自動車である。これらの共通点は燃費が良いことだ。

一律ではない団塊世代の退職時期

団塊世代は5年前に60歳になった時点から退職を意識するようになり、老後準備の一環でそれまでよりも出費を抑えようとする。つまり、生活の「ダウンサイジング」に対するニーズが大きいことに変わりはない。ただし、購入時期が退職時期に必ずしも一致せず、分散しているのだ。

このことは、②の「定年をきっかけにしたことはない」の割合が05年調査では6.8%だったのが、今回の調査では24.1%と3倍以上に増えていることにも表れている。06年以降、60歳で一旦定年退職するものの、再雇用されて給料は半額程度に下がり、同じ職場で働き続けるというスタイルが一般化した。

しかし、こうした就労スタイルは「リタイア・モラトリアム」という退職猶予期間となり、完全離職とも完全現役とも異なる遷移期間となっている。

このため、従来見られたような、退職を機にすべての生活が一変するということが起こりにくくなり、消費のタイミングも人によって異なるようになったのだ。

強まった65歳以降も働き続ける意向

他方、今回の調査で目に付くのは、団塊世代の最年長者の72%が65歳以降も働くことを希望している点だ。しかも、これらの夫をもつ妻の75%が、夫が働くことを希望していることも目立つ。

これは05年調査ではあまり見られなかったもので、同様の傾向は、65歳以降の生活ですべきこと、という設問への回答の上位2番目に「節約・倹約」が挙がっていることにも表れている昨今の経済情勢、先行き不透明感を反映したものと考えられる。

05年頃は、いわゆる「ハッピーリタイアメント」と呼ばれる悠々自適型の退職ライフに対する憧れや希望がそれなりに存在していた。この考え方は、もともと米国からの輸入だ。退職後は仕事をせず、リタイアメント・コミュニティと呼ばれる退職者が集まる居住コミュニティに移り住む。

ゴルフやテニスなどのスポーツと陶芸や絵画などの趣味を中心に余生を過ごし、いざ介護が必要になってもそこで世話が受けられるという生活スタイルだ。

しかし、08年のリーマンショック後、米国でも景気の悪化で、こうしたスタイルが実現可能な人の割合が激減した。加えて、高齢化したベビーブーマーに経済的な余裕が少ない人が多く、従来型の「ハッピーリタイアメント」は、当の米国でも過去のものになりつつある。

多様化する消費行動をくくる新たな価値観が必要

今回の電通の調査は、退職と言う一大ライフイベントの時期が分散化し、相対的な位置づけが下がることで、過去大きな塊で市場を作り出してきた団塊世代もその消費行動がまずます多様化していることを示すものだ。

シニアビジネスを行おうとする企業担当者は、こうした認識に基づき、多様化したミクロ市場をくくる新たな価値観を見出すことが大切だ。

●参考
電通総研「退職リアルライフ調査~団塊ファーストランナーの65 歳からの暮らし」 プレスリリース、12 年5 月29 日