シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第196回
中高年女性を惹きつける「押し花アート」
「押し花アート」が中高年女性に人気だ。これは草花を自然の色のままに乾燥させ、長期間色あせない技術を用いてクラフトワークなどの作品にするものだ。
押し花アートのインストラクターを認定する世界押花芸術協会には約4千人のインストラクターが会員として登録している。
会員の年齢構成は70代32%、60代29%、50代19%、80代以上11%。50歳以上が91%で、ほとんどが女性だ。何が中高年女性を惹きつけているのか。
理由の第一は、生花を色褪せず美しい色のまま残せることだ。押し花の一般的なイメージは「押しつぶした枯れた花」ではないだろうか。このイメージを180度変えた点が大きな魅力になっている。
押し花アートの提唱者で協会会長の杉野宣雄氏によれば「退色しないための加工法など多くの独自技術を用いている」とのことだ。
理由の第二は、初心者でも手軽に美しく作品がつくれること。
一般に芸術(アート)と言うと何となく敷居が高くなりがちだ。これに対して押し花アートは、自宅の庭に咲く花を用いてインテリア装飾品をつくるなど、身近な素材で手軽に取り組める点が中高年女性に受けていると言える。
同好の仲間との交流も楽しみの一つ
初心者でも取り組みやすい反面、始めると作品制作スキルを向上したくなるのが人の常だ。協会では定期的に全国各地で展示会やワークショップを開催して会員のスキルアップを支援している。
実はこうした場での会員同士の交流機会も魅力になっている。先日東京・立川市で開催された展示会では全国中から同好の会員が大勢集まり、楽しそうに交流していた。
ホテルで開催された懇親会では、コロナ禍のため4年ぶりの再会となり大変な盛り上がりだったのが印象的だ。
インストラクターである会員一人当たり平均30名の生徒を持つため、全国中で約12万人が活動に取り組んでいることになる。杉野氏がNHKの朝ドラ「らんまん」の押し花監修で注目されていることもあり、愛好者はさらに増えつつある。
花と暮らす認知症予防講座の試み
一方、押し花アートを中心とした花や植物を楽しみながら、認知症予防につなげる「花と暮らす認知症予防講座」という活動も試験的に始まっている。
主催者の杉野氏の母親が認知症を患っていたことと、杉野氏自身が押し花アートの制作で多くの花や植物に触れ、癒されてきた体験から、花や植物に積極的に触れ合うことで認知機能の改善につながらないかと考えたからだ。
ただし、現時点のアプローチの仕方は園芸療法的で、植物と触れ合うことによる心理的な効果を狙っているものだ。このため認知機能の改善につながる理論的なメソッドも学術的なエビデンスも存在しない。
薬を使わない非薬物対認知症療法はいくつか存在するが、そのほとんどは学術的エビデンスがないものが大半だ。
厚労省のデータによれば75歳を過ぎると認知症有病率が急増することが知られている。押し花アートに取り組むことで、楽しみながら脳の健康も維持できるなら一挙両得となり、さらに活動のすそ野が広がりやすいと言えよう。メソッドの学術的な検証と科学的なエビデンスの整備が待たれる。
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