懐かしさと機能性をバランスした腕時計

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第191回 

シニア向け通販は通常女性会員が多い

日本の人口動態を見ると、実は団塊世代より上の年齢層は圧倒的に女性が多い。一般に女性の方が長生きだからだ。シニア市場とは「女性主導市場」とも言える。

これを反映してか、シニアを対象にした通販会社の会員は一般に女性の割合が圧倒的に多い。こんな話をするとシニア男性にとっては肩身が狭くなるかもしれない。

ところが、通販サービスのライトアップショッピングクラブ(LUSC)は、会員の7割以上が60歳以上だが、男女比がほぼ1対1で同業他社と比べて男性比率が高い

コロナ禍による巣ごもり消費拡大の影響で毎年4%程度会員数が伸びている。なぜ、シニア男性に受けているのか、人気商品でひも解いてみよう。

この世代は若い頃から慣れ親しんだものを好む傾向が強い

一つ目は、マックレガーのジャケットを取り上げたい。京都府の平野信二さん(59歳、仮名)は、「若い頃に着ていて、懐かしさを感じて購入した。前のファスナーを上げてもチラリと赤いチェック柄が見える点などシンプルだが、さりげない洒落たデザインが良い」と話す。

この世代は流行と無関係に若い頃から慣れ親しんだものを好む傾向が強い。ターゲット顧客に合わせてそうしたアイテムに触れてもらうと、以前本連載でも触れた「ノスタルジー消費」を促しやすい。

商品を「限定モデル」にしている点も希少性を高め、購買意欲をそそっている。

懐かしさと機能性をバランスしたデザインが受ける

二つ目は、セイコーのオリジナル腕時計。神奈川県の田中正雄さん(68歳、仮名)は、「鉄道運転士をしていた頃、電車の運転席で毎日使っていたのが精工舎の鉄道時計だった。まるで当時の懐中時計がそのまま腕時計になったようで懐かしくてたまらず購入した」と語る。

これもノスタルジー消費の一種だが、懐かしさだけが購入理由ではない。ソーラー電池の利用で電池交換不要としつつ、ソーラーパネルを文字盤の下に配置して鉄道時計の雰囲気を残すなどのこだわりが随所に見られる。こうした機能性とのバランスが心地よいのだ。

名店の味を自宅でも「本当に」味わえる本物が受ける

三つ目は、銀座の老舗とんかつ屋・梅林のかつ丼だ。福島県の若林恵一さん(61歳、仮名)は「銀座の名店の味を福島の自宅でも味わえるのがいい。肉は厚いのに柔らかく、卵もトロトロで、とても冷凍とは思えない」と話す。

巷には「名店の味を自宅で」とうたう通販が多いが、実際に食べてみると期待外れの場合も少なくない。梅林のかつ丼は累計販売数25万食を超え、リピーターも多いとのことだ。

LUSCがシニア男性に受けている共通の理由は、①百貨店などの実店舗ではもはや扱わない、昔からの愛用品や無くならないで欲しい商品が買えること、②住んでいる場所に依らず手軽に本格派を味わえること、③普段使いの製品だが上質感があり、価格は高過ぎず安過ぎずないこと、と言える。

これらは通販の強みを活かしているが、シニア男性の琴線に触れる商品デザインの「こだわり」と「品質の良さ」を両立している点が重要だ。

モノ消費にも物語性が求められる時代

シニア層は一般に生活に必要なほとんどのモノを持っている。このため、コロナ禍以前の経済成熟・モノ余り社会では「モノ消費」から「コト消費」へのシフトが声高に言われ、多くの小売業が時間消費機会をサービスに組み込もうとした。 

一方、コロナ禍による外出制限で巣ごもりによる「モノ消費」へ回帰したように見える。だが、日用品に飽きたシニア客には何らかの「物語性」のあるモノが求められている。LUSCはそうした商品のショーケースのような通販会社だ。