ヘルスケアアプリは介護予防にどこまで役に立つか?

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第187回 

スマホによるヘルスケアアプリの現状

少し前にある企業A社から「シニアの健康管理上、重要な計測項目は何か?」と尋ねられた。

A社はスマートフォンで利用する自社独自のヘルスケアアプリを開発し、これまで法人従業員向けにサービス提供していた。アプリで扱っているデータはA社独自仕様で作られた体組成計とスマホから得られるデータの一部だった。

対象がアクティブシニアの場合、健康管理の最大の目的は要介護状態にならないことである。そのためには、①高血圧、②糖尿病、③脂質異常症、④肥満の数値管理が必須だ。

なぜなら要介護になる原因の第一位が脳卒中であり、脳卒中は動脈硬化から生じ、それを進行させる主要因がこれら4つだからだ。

体組成計からは④の肥満に関するデータ(体重、BMI、体脂肪率、内臓脂肪率)は得られる。しかし、①から③のデータは得られない。

スマホから得られるデータは歩数データのみだ。スマートウォッチと連携しても得られるデータは歩数、心拍数、血中酸素濃度などで、やはり①から③は得られない

血液検査の低価格化と簡易検査は測定精度向上が課題

高血圧を予防するためには毎日の血圧測定が重要で、血圧計が必要だ。現状では国内の血圧計メーカーはA社のような他社製のアプリとのデータ連携を許可していないので血圧計で測定したデータをA社のアプリに手入力する必要がある。

一方、糖尿病と脂質異常症の管理には血液検査が必要で、病院かクリニックに行く必要がある。血液検査は3割自己負担で一回4,000円程度かかる。

一部薬局には「ゆびさきセルフ測定室」というサービスがあり、病院での血液検査よりも低価格で、糖尿病数値である空腹時血糖値とHbA1c、血中脂質関連数値である中性脂肪、LDL(善玉)コレステロール、HDL(悪玉)コレステロールの値を測れることになっている。

ただし、現状では薬局によって測定精度にばらつきがあり、病院やクリニックでの計測値のような信憑性は得られていない。

スマートウォッチで何ができる?

最新のスマートウォッチを組み合わせた場合、介護予防の観点で有用なのは、ウォーキングなどの有酸素運動時の心拍数管理ができることだ。

有酸素運動による脂肪燃焼に適した心拍数は最大心拍数の65%が最適値であることが知られている。

最大心拍数は(220-年齢)なので、50歳の場合(220-50)×0.65=110.5≒110、60歳の場合(220-60)×0.65=104.0≒104の心拍数を維持すると体内の脂肪が一番燃えやすい。

現状スマートウォッチには様々な機能が追加されている。電気心拍センサーが搭載されているものは、心電図アプリで心拍と心拍リズムを記録し、そのデータから不整脈の一つである心房細動の兆候がないか確認できる。

一方で心電図を計測しているにもかかわらず、自律神経の状態を評価できる機能はない。

また、寝ている間のレム睡眠、コア睡眠、深い睡眠などの時間の長さを確認できるものもあるが、アルゴリズムが不明で計測値の信憑性に疑問が付く。

以上の通り、介護予防の観点で現状のヘルスケアアプリとスマートウォッチができることは限られている。

メーカーはメインターゲットを若者に置いているが、シニアをターゲットにして機能を絞り込み、価格を押さえれば、もっと市場が広がるだろう。