見守り電気のしくみ

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第193回 

そもそも、なぜ高齢者は賃貸住宅を借りにくいのか

高齢者(65歳以上)になると直面する「不」(不安・不満・不便)の一つは、賃貸住宅を借りにくいことだ。実は高齢者が入居可能な賃貸住宅は全体の約5%しかない。

筆者はシニアビジネスの基本は「不」の解消だと言い続けてきたが、この課題に真正面から取り組んで注目を集めているのが、高齢者向け賃貸情報サイト「R65不動産」を運営する株式会社R65(東京・杉並区)だ。

そもそも、なぜ、高齢者は賃貸住宅を借りにくいのか。理由は、住宅を貸す側の大家が高齢者に多くのリスクを感じて、貸し渋るからだ。

主なリスクは、孤独死、認知症、家賃滞納、部屋がごみ屋敷になるなどで原状回復に高額な費用がかかるうえ、物件価値が低下することだ。

こうした事情から不動産業者も高齢者への仲介には及び腰とされる。高齢者が求める条件の物件が少なく、手間がかかる割に収益が低く、入居後の管理も面倒なためだ。

見守り電気で高齢者賃貸の「孤独死リスクを可視化」

R65不動産が重点的に取り組んだのは大家が漠然と感じている「リスクの可視化」だ。最大のリスクである孤独死を防ぐためには何らかの「見守り機能」が不可欠だ。

とはいえ、賃貸物件に見守り機能をつけるのは簡単ではない。入居希望の高齢者は「誰かに見張られるのは嫌だ」と言うし、物件貸出し希望の大家は「設備投資にお金をかけられない」と言う。さらに、物件の管理会社は「設備交換に手間をかけられない」と言う。

こうした三すくみ状態を打破するために、R65不動産は提携企業と「見守り電気」という仕組みを開発した。これは住宅入居者の電力使用量パターンを常時AI(人工知能)で分析し、通常と異なるパターンの場合、家族や管理会社などの見守る人にメールで通知するものだ。

孤独死のリスクを下げ、仮に孤独死が起きた場合でも早期発見が可能となり、物件価値の低下を最小限に抑えられる。

孤独死対応保険もセットにして大家のリスクを低減

見守り電気から「いつもと違う」知らせを受けた場合、すぐに現場の様子を確認する必要がある。そのために見守りセンターが知らせを確認して、提携スタッフが現場に駆けつける「駆けつけサービス」も用意している。

また、やむを得ず孤独死が起きた場合の原状回復費や空室になった部屋の家賃を補償する保険も用意して大家の経営リスクを減らした。

さらに、住宅を探している高齢者にとってはサイトに「65歳からのお部屋探し」と明示されており、門前払いされない安心感がある。

需要は大きいが供給が少なかった自立高齢者向け賃貸住宅市場

大家の経営リスクを下げつつ、積極的に情報発信した結果、高齢者に貸してもよいという物件が徐々に増え、ニーズに応えやすくなってきた。現在同社のホームページでは首都圏だけでなく全国の約1000~2000件の物件を扱っている。

一般に高齢者は築年数が古くても、広い部屋や階段を使わない1階の物件を希望する場合が多い。入居期間が短い学生と違い、一度入居すると長く住む傾向にあり、大家にとっては空室率を下げ、改修費用も抑えられるメリットがある。

2035年には人口の3人に一人が高齢者となる。その頃には高齢者という括りが時代に合わなくなるだろう。R65不動産は、何歳になっても住宅の選択肢がある社会を構築するためのフロントランナーだ。