シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第194回
再び増える「大人向け」商品
本連載第101回で、子供や若者向けの商品・サービスを大人・シニア向けに売れないかを考えることで潜在市場を顕在化できる、と述べた。
6月22日にタカラトミーが「大人向けプラレール」を発売するが、最近子供向け商品を「大人向け」に変更した例が再び増えている。
だが、単に商品名に「大人の××」と銘打ったり、「大人向け」とアドバルーンを上げたりするだけでは売れる保証はない。
子供向け商品を「大人向け」に変える場合、潜在利用者が求めている「機能性」を明確に訴求して「コスパ感」を出すことが重要だ。森永乳業の「ミルク生活」はそのよい事例だ。
利用者の7割が60歳以上
「粉ミルク」といえば多くの人は赤ちゃん向けのものと思うだろう。ところが、「大人のための粉ミルク」とうたっている「ミルク生活」はシニアに人気だ。
粉ミルクにもかかわらず、一般の牛乳には含まれていないラクトフェリン、ビフィズス菌、シールド乳酸菌、11 種類のビタミン、食物繊維などの栄養分が含まれている。
森永乳業によると利用者の7割が60歳以上、男女比率は80%が女性。店頭での市場シェアは90%以上とのこと。なぜ、シニアに受けているのか?
少量の摂取でシニアに必要な栄養分がまとめて摂れる
理由の一つ目は、1回20グラムの摂取でシニアに必要な栄養分がまとめて摂れることだ。
埼玉県の佐藤和子さん(仮名、75歳)は「昨年の健康診断で栄養不足と言われ体が心配だったが、半年前に店頭で高たんぱく、高カルシウム入りの『ミルク生活プラス』を見つけてから飲み続け、今ではすっかり栄養状態も良くなった」と語る。
高齢になるにつれ様々な理由で食が細る人が増える。加齢に伴い筋肉量が減少する「サルコペニア」は、要介護になる原因の一つだが、その主因がたんぱく質の摂取不足であることがわかっている。さらに女性は閉経後に骨粗しょう症になりやすく、男性に比べて転倒時に骨折しやすくなる。
こうした背景から「ミルク生活プラス」では、「ミルク生活」の成分のうち、たんぱく質と骨の形成に必要なカルシウムの量を増やしている。
これがシニア女性の健康不安解消ニーズにマッチしている。ミルク生活プラスとミルク生活の売上構成比が65対35なのは、この点を反映していると言えよう。
ミルクなのに牛乳臭くない
二つ目は、ミルクなのに牛乳臭くなく、牛乳が苦手な人でも飲みやすいこと。
神奈川県の小林春香さん(仮名、68歳)は「乳製品が苦手で牛乳は全然飲めないが、少しでもカルシウム等の栄養を摂りたく毎日飲んでいる。臭いもなく大変飲みやすい」という。
粉末のため軽量で、常温で長期間保存できる点も受けている。高齢になると買い物時に重いものを運ぶのが苦痛になる。また生乳1リットルパックは短期間しか保存できないため、小食のシニアには買いにくい。
必要な栄養成分が少量でも摂れるコスパが売れる秘訣
ロシアによるウクライナ侵攻と円安による物価高で消費者はますます価格に厳しくなっている。実は厳しくなっているのは、価格ではなく「コスパ(費用対効果)」だ。
加齢に伴い不足するが普段の食事では摂りにくい栄養成分を少量でも必要分摂れる利便性がコスパを感じさせ、納得性を高めているのだ。
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