シニア向けスマートフォンのあるべき姿とは?

2011年910日 シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第54

 シニアのスマートフォン利用者はまだわずか

世はスマートフォン全盛時代である。しかし、現時点ではシニアの利用者はまだごくわずかだ。

gooリサーチによる60歳以上のモニターを対象にした調査によれば、スマートフォンの利用者は全体の4.7 %、iPadなどのタブレット型の利用者は全体の2.4にとどまっている。

この調査の母集団は全員ネットユーザーであり、非ネットユーザーよりはるかにネットリテラシーが高いと思われる。したがって、母集団に非ネットユーザーを加えれば、利用者の割合はもっと低くなるだろう。

一方、男女別の利用割合では男性76.6%、女性23.4%と男性は女性の3.3倍利用者が多い。新しいIT機器が登場した時、必ず男性から普及が始まるのは一般によく見られる現象だ。

また、年齢層の違いによる特徴が明らかに見られる。スマートフォンの利用率は60-64歳が6.1%、65-69歳が3.5%70歳以上2.7%であり、団塊世代より若い世代の利用率が高い。この世代では現役ビジネスパーソンの割合が多く、パソコンを含むIT機器の利用が進んでいるためと思われる。

シニア利用者が少ない理由

現時点でシニアのスマートフォン利用者が少ない理由として次が考えられる。

マン‐マシン・インターフェイスが依然使いづらい。画面を変える操作は少し慣れれば使いやすいが、表示画面が小さく、シニアには読みにくい。ソフトキーボードからの入力も難しい。とりわけ、ログイン画面などは入力しづらいため、とくに老眼の人には苦痛だ。

用途がはっきりしない。現状のスマートフォンのターゲットユーザーは、若者とビジネスパーソンである。このため、退職者など仕事をしない人向けの用途が少ない。また、若者がよく使うSNS(ソーシャルネットワークサービス)の利用は、シニアの場合極めて少ない。

携帯電話以上のベネフィットを感じない。前掲の調査によれば携帯電話保有者は70.2%に達している。このため、携帯電話以上の付加価値がないと新たにスマートフォンを購入しようという気にはならないと思われる。

価格が高い。スマートフォンの月間利用料は最低でも4~5千円程度かかる。主たる収入を年金のみに依存している人には高価に感じられるだろう。筆者らの調査によれば、シニアの携帯ユーザーの月間利用料には幅があり、月に1万円以上使う人もいるが、2~3千円程度の人が結構多い。こうしたユーザーは、用事のない時にはなるべく使わないという人たちなので、必要性が明確でないと使わない。

シニア利用者を増やすためには何が必要か

では、シニアのスマートフォン利用者を増やすためには何が必要か?第一に、マン‐マシン・インターフェイスのさらなる改善、第二に絶対使いたいと思わせる用途開発、第三に低価格の実現である。

スマートフォンの変化の傾向を見ると、限られた端末に続々と機能が追加されている。しかし、これはかつて携帯電話がたどってきたのと同じ道だ。携帯電話のキャリアやメーカーは、どんどん機能を増やして、機能の数で付加価値競争を行う。ところが、利用者にとってはほとんど使わない機能が盛りだくさんとなる。その結果、使いにくくなっていく。

こうした観点で、6月に香港で開催された1st Asia Pacific eCare & TeleCare Congress  で見た端末が興味深かった。それは携帯電話に緊急通報ボタンとハンズフリー通話機能を組み合わせたものだった。

特に印象的だったのは、外出中に突然骨折して倒れたような場合、携帯電話のふたを開けなくても、そのままコールセンターの担当者と会話ができることだ。シニアの緊急時の場面をよく想定した商品デザインだと思った。

ちなみに、この端末を使ったサービスは、もともとこうした緊急時の安心サポートであり、これがキラーアプリ、つまりシニアにとって、あると便利で助かるメニューとなっているのだ。また、月額使用料は日本円で月1100円程度。シニアにとって負担の少ない親切価格である。

スマートフォンの「スマート」とは、賢いという意味である。賢さとは機能の数ではない。情報機器に疎い人でも簡単に使うことができ、問題解決できるようになることも機器の賢さである。携帯電話のキャリアやメーカーに一層の開発努力を期待したい。

買い手市場 - 情報武装した「賢い消費者」が増えていく