ソーシャルメディアが広げるシニアと若者との協働可能性

2011年8月10日 シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第53回

ネット技術の進化が生み出す新たなスマートシニア像

私は今から11年以上前にスマートシニアというコンセプトを提唱した。当時のスマートシニアの定義は「ネットを縦横に活用して情報収集し、積極的な消費行動をとる先進的なシニア」というものだった。その後、予想した通りのスマートシニアの増加で、多くの市場が変わったことをこれまで拙著や講演等で何度もお話してきた。

しかし、ネット技術の進化は、本人の知恵を「賢く社会に貢献するシニア」という新たなスマートシニア像を生み出しつつある。これは11年前の予想を遥かに超えたものだ。

おばあちゃんの人生相談フエイスブックページ

アメリカ・ロスアンジェルス在住の94歳の女性、バーバラ・クーパーさんによるAsk Grandma Anything(おばあちゃんの人生相談)」がその一例である。これは、ネット上で寄せられるさまざまな相談にバーバラおばあちゃんが動画で答えるというものだ。

興味深いのは、相談が世界中から寄せられることである。これはネットが世界の多くの地域に普及し、生活インフラになったがゆえに可能となったことだ。

さらに興味深いのは、とりわけ若者から多くの相談が寄せられていることである。この大きな理由は、「おばあちゃんの人生相談」の情報が、通常のブログ以外に、動画サービスのユーチューブ、短いブログのツイッター、世界で七億人が使っているフェイスブックといったソーシャルメディアを駆使して情報発信されているためと思われる。

こうしたソーシャルメディアは、現時点では圧倒的に若者が使っている。このため、「おばあちゃんの人生相談」へのアクセスも若者が多いと言うのは想像に難くない。

ソーシャルメディア通じたシニアと孫との新しい協働スタイル

しかし、クーパー夫妻いくらソーシャルメディアのユーザー層が若者中心だと言っても、情報の内容(コンテンツ)が面白くなければ、継続してアクセスされることはない。

案の定、相談の様子をよく眺めてみると、多くの若者が何度もアクセスしているのは、単に知識としての助言を求めているだけでないようなのだ。

動画ではどんな相談にもユーモアを交えてやさしく応えるバーバラおばあちゃんの姿が目に映る。おばあちゃんの旦那さんとやさしくハグ(抱擁)やキスしている場面など、アメリカ人らしい風景も微笑ましい。こうした彼女の言葉や手振り身振りを通じて、彼女の人柄が伝わり、それに癒されているのが理由のようなのだ。

こうした深いコミュニケーションが可能になったのは、ブロードバンド、動画、デジタル・ビデオという過去10年間における道具の進化のおかげである。

一方、彼女の知恵を動画に収め、ネットで伝えているのが、彼女の二人の孫娘だという点も見逃せない。バーバラおばあちゃんがいくら素晴らしい知恵を持っていたとしても、孫娘たちのサポートなしに、おばあちゃんの知恵が世界中に伝わることはないからだ。

しかも、喜ばしいのは、彼女たちが、おばあちゃんから頼まれて嫌々やっているのではないことだ。自慢のおばあちゃんの知恵をネットで伝えることで世界中から反応が得られることが、自分たちの発見でもあり、本人たちのやりがいになっている。この点こそが最も重要だ。

豊かな高齢社会とは、高齢者だけが豊かになる社会ではない

そして、こうした仕組みは、高齢者と若者とが協働作業を通じて知恵の共有を促進するさまざまな可能性を示唆するものである。

豊かな高齢社会とは、高齢者だけが豊かになる社会ではない。

豊かな高齢社会とは、高齢者と若者という異なる世代が互いに仲良く協調し、双方の世代の関係性が豊かになっていく社会なのだ。バーバラおばあちゃんと孫娘たちとの協働作業は、このことを改めて実感させてくれる。