年齢層別死亡事故件数

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第169回

実は高齢運転者の交通事故件数は年々減っている

「高齢男女が乗った車が暴走し電柱に衝突 住宅に突っ込む」「80歳男性が運転する車が逆走 高速道路で2台の車と衝突」―――こんな風にここ数年高齢者による交通事故が増えているとよく報道される。

だが、警察庁交通局の平成31年2月発表のデータを見ると、こうしたイメージと事実は異なることがわかる。実は65歳以上の交通事故死者数は、平成20年の2523人から平成30年の1966人までほぼ毎年減少している。

人口10万人当たりの交通死亡率も9.19人から5.59人に減っており、特に高齢者による交通事故が増えているわけではない。

75歳を過ぎると死亡事故件数は増えていく

一方、年齢別免許人口当たり死亡事故件数で見ると、75歳未満の運転者が平均3.7件なのに対し、75歳以上の運転者は平均7.7件と多いことがわかる。(図表 平成30年における交通死亡事故の特徴等について 平成31年2月14日警察庁交通局)

また件数は75~79歳で5.7件、80~84歳で9.2件、85歳以上で14.6件となり、75歳を過ぎて高齢になるにつれ増えている。

死亡事故の人的要因を見ると75歳未満の運転者では「安全不確認」が27%で最も多いのに対し、75歳以上の運転者では「操作不適」が31%で最も多い。

このうち「ブレーキとアクセルによる踏み間違い」事故は、75歳未満が全体の0.8%に過ぎないのに対し、75歳以上の高齢運転者は6.2%と高いのが特徴的だ。

75歳以上で死亡事故割合が多くなる理由は加齢による認知機能低下が主な原因と考えられる。

死亡事故割合が多くなる理由は認知機能低下

上述のデータによれば実際に死亡事故を起こした75歳以上の運転者の直近の認知機能検査の結果は、全受検者と比較して「認知症のおそれ」「認知機能低下のおそれ」だった人の割合が高くなっている。

私たちの認知機能の中枢は、額の後ろ側にある大脳の「背外側(はいがいそく)前頭前野」と呼ばれる部位だ。

加齢によりこの部位の機能が低下すると、動作が遅くなる、とっさに行動できなくてあわてる、判断が遅くなる、次に起こることの予測が難しくなる、といったことが起こりやすくなる。

全運転に必要な能力は認知・判断・操作の三つであり、これらの能力を担っているのが背外側前頭前野である。したがって、低下したこの部位の機能を鍛えることで安全運転能力が向上すると考えられる。

問題はどのような方法で75歳以上の人に手軽に認知機能トレーニングをしてもらうかだ。

テレビを使って75歳以上の人でも手軽にトレーニング

東北大学川島隆太教授らの研究グループはこれまでスマホやタブレット、DS、Switchなどを使った脳トレプログラムを多数開発してきた。だが75歳以上の人でこれらのツールを使える人の割合はまだ非常に少ない。

一方、75歳以上の人でも無理なく使えるのが家庭にあるテレビだ。そこでテレビを使って認知・判断・操作の能力を向上するトレーニングシステムを仙台放送と共同開発した。

開発にあたっては、トレーニング実施前後に実際の自動車教習所のコース上での自動車運転技能検査、認知機能検査、感情状態などを聞く心理アンケートを実施し、トレーニング実施による種々の変化を計測・評価した。

いくつになっても脳を鍛えれば脳機能は向上する

この結果、トレーニングにより多くの認知機能と自動車運転技能が向上することが明らかとなった。このシステムはすでにいくつかの保険会社や自治体などで導入が進んでいる。

私たちの脳には「可塑性(かそせい)」という性質があるため、いくつになっても鍛えれば脳機能は向上することがわかっている。高齢でも脳を鍛えることで重大交通事故を防げるだけでなく、いくつになってもクルマを運転し続けられる可能性が大きくなる。