外出の「習慣行動化支援」がビジネス機会になる

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第184回 

コロナ禍の2年間でどんな変化が見られたか

シニア向け旅行大手のクラブツーリズムが今年3月に会員向けに実施したアンケートに「コロナ禍の2年間を振り返って、どんな変化があったか」という設問があった。その回答の上位は次の通りだ。

(1)外出機会が減った
(2)太った・体重が増えた
(3)テレビやYouTubeを見る時間が増えた

(1)の理由として最も多いのは「旅行に行けなくなったため」。クラブツーリズムの会員なので当然だ。旅行以外に「外食機会」や「グループでの食事会」が減ったという意見も多く見られた。

さらに、外出を控えた理由として「持病(基礎疾患)がある」を挙げている場合も散見された。基礎疾患があるとコロナの重症化リスクが高くなるという認識が広まっているためと思われる。

(2)の理由として多かったのは「ビールやワインなど家での酒量が増えた」「お菓子など甘いものを食べる機会が増えた」だ。

例えばビール会社は業務用需要が減ったため、家飲み需要を喚起するためテレビコマーシャルに注力した。(3)にあるようにテレビを見る時間が増えているため、影響を受けやすくなったとも言える。

また、旅行機会が減ったため、旅行に出費する代わりに少し高価なデザートなどを購入したという人も多いようだ。

実はこれらの回答の上位3つは、既に公表されている他の調査結果(例えば連載第167回で紹介)と同様で、目新しい結果ではない。

「外出がおっくうになった」理由は認知機能の低下

ところが、今回のアンケート結果で目立ったのは「外出がおっくうになった」「出かけるのが面倒に感じる」といったコメントが非常に多く見られた点だ。

実はこうしたコメントは、「意欲」や「やる気」の低下を表している。原因として第一に考えられるのは、「認知機能の低下」だ。

運動不足や会話不足は大脳の前頭葉にある意欲の中枢の機能低下を促す。また、テレビやYouTubeを見る時間が増えると大脳の前頭前野に抑制がかかり、習慣化すると認知機能が低下する

第二に考えられるのは、外出しないことが「習慣行動化」したためだ。

私たちが取る行動には「目的行動」と「習慣行動」がある。私たちは目的行動の繰り返しによって、その価値が私たちの脳に「学習」され「記憶」されていく。

コロナ禍での「ステイホーム」という目的行動が繰り返された結果、外出しないことが「習慣行動」となり、無意識的に選択するようになったのだ。

外出の「習慣行動化支援」がビジネス機会になる

では、こうした「外出がおっくう・面倒」を切り替えるにはどうするか。必要なのは、外出を「習慣行動化」することだ。

外出がおっくうに感じる人は、外出をするための心的エネルギーが大きくなっている。したがって、意欲を引き出し、負担感のない範囲で少しずつ行動していくのがよい。

クラブツーリズムでは、自治体と連携して地域の文化資源を観光と組み合わせた「地域文化ツアー」を商品化しシニアに好評だ。

人気の一つに、東京都台東区との連携協定で実現した「江戸の匠・職人を撮るツアー」がある。参加者は東京・浅草、蔵前の職人を撮影できる。

伝統工芸の工房など一人では通常入れない特別な場所にカメラを携えて入れるのがミソだ。こうした地域文化ツアーは自宅から約1時間圏内の地元または近隣への短距離旅行で、多くが日帰り旅行だ。

意外性のある文化体験ツアーだが、近距離の移動なので感染リスクが小さく、仮に緊急事態宣言が発出されても、実施可能性が高い

この事例のようなシニアの外出の「習慣行動化支援」は、新たなビジネス機会になり、他業種にも参考になるだろう。