年齢別SNS利用状況

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第172回

調査でシニアのネット利用率急増も現場は異なる認識

総務省「通信利用動向調査」2019年によれば、シニア層のネット利用率は2018年と2019年で比較すると、60代は76.6%から90.5%、70代は51%から74.2%、80歳以上は21.5%から57.5%へ増加している。特に70代以上の利用率が急増している点が目立つ。

99年に私が「ネットを縦横に活用して情報収集し、積極的な消費行動を取る先進的な高齢者」をスマートシニアと呼び、ネットの普及と共にこうした人々が増えていくと予言したが、20年以上経ってそれがようやく現実化した。

一方でシニアを主要顧客とした事業者からは「まだまだシニア層のネット利用は少ない」と言った声が上がる。

通販ではまだ紙のカタログが好まれ、会員向けの通知も紙ベースの希望が多いという。新型コロナウイルスのワクチン接種予約もネットより電話が圧倒的に多い。

高齢者向けセミナーをZoomなどでやろうとしても、参加者が非常に少ないという声が高齢者住宅事業者から頻繁に聞こえる。

高齢者がICT利用を苦手な根本理由

そもそも、なぜ一般に高齢者はICTが苦手なのか。最大の理由は認知機能の低下により新しいことの習得がおっくうになるためだ。

私たちの認知機能は一般に20歳を過ぎると加齢とともに衰えていくことがわかっている。認知機能の中核は大脳の前頭葉の「背外側前頭前野(はいがいそくぜんとうぜんや)」と呼ばれる部位で、記憶や学習、行動や感情を制御している。

この部位の中核機能の一つに「作動記憶」がある。これは短時間に情報を保持して処理する能力だ。ところがこの作動記憶量が加齢と共に減っていくため、新しいことの理解に時間がかかるようになる。

すると「新しいこと=ICTの使い方」の習得に多大な労力が必要となり、おっくうになるため「昔からなじんだ安心なもの=電話やテレビ」を好むのだ。

シニアのICT利用を促す勘所は?

前掲のスマートシニアのくだりの通り、シニアのネット利用率は時間と共に増加するので、高齢者でもネット利用が当たり前の時代がいずれやってくる。だが、それまでの間、シニアがICT利用を促す方策がサービス提供側、利用側の双方に望まれる。

まず、サービス提供側に必要なことは「使い方が徹底的に簡単」なインターフェイスだ。例えばパソコンではなくシニアが使い慣れているテレビを核とするやり方がある。

以前取り上げたチカク(東京・渋谷)の「まごチャンネル」はテレビを中心とした簡単操作とICT機器らしくないデザインで、コロナ禍で子供や孫に会えない老親のために子供が導入する例が増えている。

子供や孫とのコミュニケーション機会はシニアのICT利用を促す。日本でSNSのLINEが普及した理由として、利用者が多い子供との連絡のために親が導入したことが大きい。

一方、利用者側の方策としては「使うと得」なことが重要だ。利用時の買い物ポイント付与、割引は日々の出費を抑えることに敏感なシニアに響く。

バーコード決済のPayPayはスマホでの電子決済では後発だったが、サービス導入時に多くのポイント付与を行い、利用者を一気に拡大した。コロナ禍で現金利用を避ける風潮から利用者はさらに増えた。

シニアにとって「毎日の生活に不可欠」「ないと生活できない」というアプリの存在がシニアのICT利用促進にさらに効果的だろう。

例えば、健康保険証や自動車免許証、パスポートをスマホ化すれば、導入は飛躍的に進むと思われる。

新型コロナウイルスのワクチンパスポート、接種証明もイスラエルなどと同様にスマホ化すれば旅行好きなシニアは導入するだろう。

デジタルの普及のためには使いやすい生活密着型サービスとの連携が不可欠だ。

成功するシニアビジネスの教科書

シルバー産業新聞