「一人者」でも利用しやすいサービスの条件とは?

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第189回 

「一人者」でも利用しやすいサービスが求められている

超々高齢社会とは実は「一人者(おひとりさま)」が増える社会だ。本連載第102回で触れた「一人暮らし世帯特有の価値」を組み込んだ商品は、必ず一定量の需要がある。

一方、複数での利用が前提となっていることで「一人者では利用しにくいもの」が、まだ世の中には多く存在する

地方にある老舗の温泉旅館などでは、中高年女性一人で宿泊を申し込むと断られる例が未だにある。宿泊中に自殺でもされたら困るからだという。しかし、単純に一人で仕事を忘れて風情のある温泉旅館でリラックスしたいという人は増えている。

コロナ禍以降、大勢が集まるレストランでの食事ではなく、部屋食にして露天風呂まで部屋に完備し、宿泊者は感染予防しながら、部屋のなかで全てのサービスを受けるという例も箱根に出現した。ただし、高価格なため利用者は限られる。

一人で食事をする機会が増えれば、カウンター主体のラーメン屋やファストフード店だけでなく、時には上質なレストランで食べたい人も多いだろう。

ところが、そうしたレストランは、たいていカップルでの食事を前提にした場のデザインになっている。女性の場合、一人でもこういう場所に入る人は多いが、中高年男性の場合、一人ではなかなか入りにくい。

したがって、「中高年女性一人専用、温泉宿泊パッケージ」や「男性一人専用ラグジュアリーレストラン」などがあれば一定の客はいるだろう。リーズナブルな価格で一人でも楽しめる「一人エンジョイ支援型」商品の潜在需要は大きいと思われる。

「一人者」が孤独に見えないパリ、孤独に見える東京

ちなみに、フランスのパリやアメリカのニューヨークは、こうした「一人者」が多い街だ。カフェやレストランには一人マイペースで食事を取る人が老若男女関係なく実に多い。また、老人が公園のベンチで一人ぽつんと座っているシーンもしばしばお目にかかる。

ところが、不思議なことにこうした「一人者」たちが、あまり孤独そうに見えない。それどころか、一人者たちが街の風景のなかに溶け込んで絵になっているのだ。

だが、これが東京だと様子が異なる。東京の公園で老人が一人ぽつねんとベンチに座っている風景は、とても寂しそうに見える。街の空間が「一人者」を排除しているように見えるのだ。

だから、単品の商品・サービスにとどまらず、「ショッピングモール」や「公園」などの街づくりの際に一人でいても周りから孤独そうに見えない空間の作り方が求められるだろう

「一人」だが「独り」ではない距離感が受ける

一人者の生活も、ずっと「独り」では辛い。コロナ禍でクラブツーリズムが自治体と組んで開発した地域の文化資源活用のローカル文化ツアーはそんな不満の解消策となっている。

人気ツアーの一つは、台東区との連携協定で実現した「江戸の匠・職人を撮るツアー」。参加者は台東区浅草・蔵前の匠・職人を撮影できる。

シニアに人気な理由は、伝統工芸の工房など通常一人では入ることができない特別な場所にカメラを携えて入れること。千葉県船橋市に住む佐藤卓也さん(70歳、仮名)は「普段はまず撮影できない本物の職人さんの息遣いを感じながら仕事風景の瞬間を撮影できたのが刺激的だった」という。

職人さんとの交流を楽しみながら、一日ゆったりと写真撮影を堪能できることも人気の理由だ。こうしたツアーへ参加する人たちはカメラ好きが多く、初対面でも話が弾みやすい。

従来のパックツアーのように観光地を慌ただしく巡るのではなく、伝統職人の芸の瞬間を写真に収めるという密度の濃い体験と同好の士と出会いが、つかず離れずの「距離感」となっている。