シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第181回
団塊世代と2025年問題
団塊世代の最年長者は今年誕生日を迎えると75歳になる。日本の団塊世代の定義は1947年(昭和22年)から1949年(昭和24年)生まれの人を指すため、2025年までに団塊世代全員が75歳を超えることになる。
75歳以上の高齢者は後期高齢者と呼ばれる。この呼び方は英語のolder old由来と思われる。参考までに65歳~74歳を前期高齢者と呼ぶが、こちらは英語でyounger oldと呼ぶ。
後期高齢者という呼び方は評判が悪いが、75歳以上での区分は医学的に意味がある。例えば、病気にかかって通院や入院する割合である「有病率」や「要介護(要支援)認定率」は75歳を過ぎると急増する。
認知症有病率も同様だ。厚生労働省研究班推計(2013)によれば、70~74歳で4.1%だが、75~79歳では13.6%と3倍以上になる。さらに80~84歳では21.8%、85~89歳では41.4%と急増する。
団塊世代は名称の通り、約810万人と人数が多い。このため、2025年から2040年の15年間の医療・介護ニーズの急拡大が予想され、介護保険制度の抜本的な見直しが必要だ。本紙の読者ならご存じの通りだ。
まだ元気な人の認知症の発症を可能な限り防ぐことが必要
しかし、医療・介護だけでは対応が厳しいことも容易に予想できる。いま必要なことは、まだ元気な人の認知症の発症を可能な限り防ぐことだ。
本連載第174回で触れた通り、現時点では「認知症は医学的に予防できる」とは言えない。だが東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターで開発した認知機能トレーニングにより、衰えていた認知機能が回復し、認知症だった人の症状が改善して日常生活に復帰できた事例を私たちは数多く知っている。
認知機能トレーニングは、いわゆる「脳トレ」として任天堂のDSやSWITCHなど多くのプラットフォームでアプリの形で提供されている。これらを毎日15分程度、団塊世代の全ての人たちに使ってもらえれば、認知症の発症をかなり抑えられる可能性はある。
だが、こうしたゲーム型アプリで毎日脳トレを行う人は「認知症予防意識」のかなり高い人だ。残念ながらこういう人は現状では少数派にとどまっている。
脳トレは「脳を鍛えるためのトレーニング」である。効果を上げるにはそれなりの負荷を脳にかけなければならない。ところが、高齢になるにつれ、この負荷を苦痛に感じて継続が困難になる人が多い。
そこで直接脳トレアプリに取り組む代わりに、日常生活のなかで自分が好きなことに取り組むと、自然と脳が鍛えられる方が継続されやすいと考えられる。
クロスステッチ刺繍や編み物が脳活動を活発化する
手芸用品大手のユザワヤ商事㈱による「脳トレ手芸シリーズ クロスステッチ刺繍キット」「同 編み物キット」がその例だ。この商品は東北大学と日立ハイテクの合弁会社、㈱NeUが実証実験・監修を行い、商品化したものだ。
従来、手芸のような手先を動かしたり、頭を使ったりする活動は、中高年層の頭の体操や物忘れなどの防止に良いと一般的に考えられていた。
NeUが開発した小型NIRS(近赤外光分析装置)による脳計測実験の結果、クロスステッチ刺繍や編み物を行うことで大脳の前頭前野を中心とした脳活動が活発化することが実証されている。
前頭前野は脳の司令塔と呼ばれる認知機能の中枢で、この部位の活動が日常的に活発化すれば認知機能の維持・向上が期待できる。
年配の女性には刺繍や編み物などが好きな人も多い。好きな手芸に取り組むことで、楽しみながら脳の健康を維持できる。
これからは団塊世代を対象にしたこうした商品が増えていくだろう。