シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第166回
認知症発症以前に脳の萎縮が進んでいる
世の中がコロナ禍一色になっても、社会の高齢化は止まらず、認知症人口は増え続けている。むしろコロナ禍による外出自粛の影響で一段と増加していると思われる。
一般に認知症と診断されるのは、徘徊などの周辺症状が進み、困った家族が病院に連れて行き、医師から診断を下された時だ。
実は、この時点よりかなり前の段階で脳の萎縮(いしゅく)が進んでいる場合が多い。これは脳の神経細胞やこれらをつなぐ神経線維などが脱落し、脳体積が減少することだ。脳の萎縮が進むと認知機能の低下が起こり、認知症になっていく。
脳の萎縮は一般に加齢と共に進むが、喫煙、飲酒、肥満、動脈硬化などが促進要因となる。一方、1日30分程度の有酸素運動や社会と関わって他人とのコミュニケーションが多いことが抑制要因となる。
知的好奇心が旺盛だと脳の萎縮を抑える
加えて、脳機能画像研究の第一人者、東北大学の瀧靖之教授によれば、知的好奇心が旺盛なほど、脳の萎縮を抑えることがわかっている。
知的好奇心が旺盛な人の脳を調べると、海馬、腹側被蓋野、側坐核、中脳黒質といった部位の活動が高まっていることがわかる。海馬は新しい記憶を司る中枢であり、他の3つは「元気」や「やる気」を感じさせる「報酬系」という神経ネットワークの中枢だ。
興味深いのは、知的好奇心が湧く活動に対してはモチベーションも上がり、記憶の定着が良くなることだ。記憶は特定の神経細胞のネットワークに存在するので、記憶の定着が良くなれば神経細胞の脱落が起こりにくくなり、萎縮が抑えられるというわけだ。
これに関連して50歳以降によく見られる消費形態に注目だ。川崎市に住む山本次郎さん(56歳)は、4年前から学生時代にやっていたギターに再び取り組み始めた。学生時代の仲間と音楽バンドを再結成したためだ。30年余りのブランクのため、当初は指の動きもぎこちなかった。しかし、徐々に昔の勘を取り戻し、最近は演奏会で披露できるほどになった。
宇都宮市に住む近藤弘明さん(57歳)は3年前からドローンを始めた。子供の頃、ラジコンが大好きだったが、当時は家が貧しく、近所の裕福な子供が扱う飛行機のラジコンをじっと眺めて我慢していた。両親の介護も子育ても一段落した今、夢だったラジコンの現代版、ドローンを手に入れてようやく当時の夢を実現したのだ。
「自己復活消費」「夢実現消費」が知的好奇心を旺盛にする
山本さんのように昔やっていたことにもう一度取り組み、自分らしさを取り戻そうとする消費を「自己復活消費」、近藤さんのように昔は経済的に実現できなかった夢を今実現する消費を「夢実現消費」と私は呼んでいる。こうした消費形態は次の理由から50代以降に多く見られる。
まず、50代は20代・30代に比べて経済的に余裕ができる。年齢別の年間所得の面では50代が最も大きいからだ。一方、50代になると老眼など感覚器の衰えもあり、新しいことに取り組むのがおっくうになっていく。
すると、昔慣れ親しんでいたことや、自分が好きでやりたかったことの方が取り組みやすくなる。慣れていること、好きなことだから続けやすいことも理由だ。
以上より言えることは、50歳を過ぎて趣味に取り組みたくなったら、迷わずどんどんやるのがよいということだ。認知症予防の観点からもよいからだ。
コロナ渦により家で過ごす時間が長くなった人が多いと思う。通勤時間が減り浮いた時間はダラダラ過ごすのではなく、運動も含めて趣味の時間にあてることをお勧めしたい。一方、まだ趣味に取り組んでいない人は早めにテーマを探すことをお勧めしたい。