高所からの落下恐怖体験装置

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第165回

GABAを口から摂取してもストレス軽減できない

ストレス社会の現代は、ストレス解消型の商品が求められている。2020年は新型コロナウイルス感染症の拡大で何かとストレス要因が多い年だった。

こうした背景から「精神的ストレスを軽減する」などとうたった食品、サプリメントが市場に多数見られるようになった。

これらの商品にはGABAという神経伝達物質が機能性関与成分として含まれていることが多い。

GABAとは「ガンマ-アミノ酪酸」の略称で抑制系の神経伝達物質だ。これが脳内に分泌されると脳の興奮を抑えることからストレス抑制にも効くと思われている。

だが、実はGABAは脳内でしか生合成されない。さらに脳には「血液脳関門」という脳の防御機構があるため、GABAを口から摂取してもここを通過できず、脳内に成分が到達しない。だから上述の食品やサプリを摂取しても効果はない。この事実は一般にはあまり知られていないようだ。

罰系を応用すると気分をスッキリできる

一方、「意図的に気分をスッキリ」させることができれば、精神的ストレスを軽減できる可能性がある。その一つのカギが「罰系(ばつけい)」と呼ばれる脳のネットワーク機能だ。

罰系とは扁桃体(へんとうたい)と呼ばれる脳の中枢を核として恐怖や不快情動に関係する神経ネットワークだ。

例えば、暗い夜道を一人で歩いている時に、物陰から突然不審者が目の前に「わっ」と現れたり、山道を歩いていたら急に大きな蛇が出現したりした時に罰系が働く。人間を含む動物の防衛本能に直結する機能だ。

罰系が活性化すると、それに反応して逆に恐怖や不快感を抑制しようと「セロトニン」という調節系の神経伝達物質が脳内に分泌される。

セロトニンは目覚めや睡眠など様々な生体機能を調節する役割を持っているほか、不安を抑制し、負の記憶が過剰に形成されるのを抑制する機能がある。

この罰系の特性をうまく利用して脳内のセロトニンの分泌を促すと「気分スッキリ商品」になる。典型的な例は「お化け屋敷」だ。これは映像や音響、からくり、役者などを駆使し、利用者に対して幽霊や怪物に対する恐怖を疑似体験させるものだ。

前述の通り、恐怖を体験すると罰系が活性化し、これを抑制しようとしてセロトニンの分泌が促される。

興味深いのはお化け屋敷を出ると恐怖感はなくなるが、脳内にセロトニンがしばらく分泌し続けるため、スッキリした気分になることだ。お化け屋敷以外に劇場でのホラー映画鑑賞も似たような商品だ。

もう一つの例は「バンジージャンプ」だ。これは幽霊や怪物による恐怖体験ではなく、高所からの急速な落下という恐怖体験だ。

こちらの場合もジャンプが終われば恐怖感がなくなるが、セロトニンの分泌がしばらく続くので体験が終わるとスッキリする。高速で急激降下のあるジェットコースターも似たような商品だ。

恐怖疑似体験がストレス解消に役立つ

東京・浅草にある「浅草花やしき」は、こうした恐怖体験を異なるアトラクションでいろいろ体験できる場所だ。

ここにある「お化け屋敷」は、江戸時代開園の花やしきで語り継がれる怪談話のひとつ『桜の怨霊』をテーマにした有名なもの。「スリラーカー」では乗り物で移動しながら恐怖感を味わえる。

他にも昭和28年から稼働している日本現存最古のジェットコースター「ローラーコースター」、地上60mから急降下する絶叫マシン「スペースショット」など盛りだくさんだ。入場料も65歳以上は半額の500円とシニアにやさしい。

こに挙げた恐怖疑似体験型の商品は、先述の食品やサプリメントよりも、よほど効果を自覚しやすい商品と言えよう。ただし、高血圧の方やパニック障害などの精神疾患をお持ちの方は事前に健康状態のチェックをお勧めする。

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