
2014年6月10日 シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第87回
海外で売れているものが日本でも売れないかを考える
シニアビジネスを発想する場合、海外で売れているものが日本でも売れないかを考えるのも一つの方法だ。これは、外食産業やアパレル産業、小売業など、さまざまな業界でいくつもなされてきた手法である。
シニア向けでいえば、私が2003年に日本で初めて紹介した女性専用フィットネスのカーブスもこれにあたる。2014年4月現在で、日本国内で1411店舗、会員数60万人にまで成長した。
2005年7月に直営1号店をオープンしてから、わずか8年9か月という短期間での急成長は、世界各国のカーブスからも驚きの目で見られている。
リタイアメント・コミュニティは日本でうまくいかない典型
一方、外国発のシニア向け商品が日本でうまくいかない典型は「リタイアメント・コミュニティ」だ。
リタイアメント・コミュニティとは、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどに特有の大規模な老人ホームの形態だ。なかには一か所に3,000人も居住している例もある。
リタイアメント・コミュニティには大きくCCRC(Continuing Care Retirement Community、継続介護付きリタイアメント・コミュニティ)とAARC(Active Adults Retirement Community、元気高齢者向けリタイアメント・コミュニティ)がある。
アメリカに圧倒的に多いのはCCRCだ。アリゾナ州にある有名なサンシティ(Sun City)はAARCである。
このリタイアメント・コミュニティについては、日本では2000年頃からさまざまな企業が挑戦してきたが、未だに成功例はない。現存するものでアメリカ型のリタイアメント・コミュニティに近い例としては、千葉市稲毛区にある「スマート・コミュニティ稲毛」が挙げられる。
しかし、実はここはCCRCではない。CCRCには通常アシステッド・リビングと呼ばれる介助サービス付きの居住棟と、重度の要介護者が介護サービスを受けられるスキルド・ナーシング・ファシリティ(日本の介護施設に相当)が同一敷地内にある。
ところが、スマート・コミュニティ稲毛には、訪問介護サービスの会社はあるが、これらの介助・介護施設がまったくない。したがって、入居者が重介護状態になれば、所有権はあるものの、ここから退去して別の介護施設で新たに料金を支払って、介護を受ける必要がある。
リタイアメント・コミュニティが日本でうまくいかない理由
私は、リタイアメント・コミュニティは日本に馴染みにくいと思っている。最大の理由は日米で市場構造と文化が違うからだ。アメリカのリタイアメント・コミュニティでの居住地域は、前掲の通り次の3つに分かれる。
- 自立して元気な人が住むインディペンデント・リビング
- 介助が必要な人が住むアシステッド・リビング
- 介護が必要で寝たきりの人が住むスキルド・ナーシング・ファシリティ
この3つに、レストラン、フィットネスジム、病院などの施設がセットで構成されている。
一方、日本では「健常型」か「介護型」、あるいは両者の「混合型」(健常型と介護型がセットになったもの)に二分される。「介助型」とでもいえるアシステッド・リビングという概念が厳密には存在しない。仮にアシステッド・リビングと謳っていても、実質は介護型になっている。
日本の混合型有料老人ホームでは、健常型に入居してくる人でも、実は身体に何らかの不具合があり、介助や付き添いが必要な人が多い。つまり、近い将来の要介護予備軍が健常型に入居し、本当に健常な人は自宅に住み続ける。
このようにアメリカ式のリタイアメント・コミュティの居住形態と日本の老人ホームの居住形態とは大きく異なる。
また、アメリカ人の「パーティー文化」も日本人にはあまり馴染まない。日本の高級老人ホームに行くと、立派なバー施設を備えたところが多いが利用者はほとんどいない。こうした老人ホームでは、入居者どうしがホームの中で一緒に酒を飲むのを避ける傾向があるからだ。
日本では入居者どうしが、互いに感情的にぶつからないように自己主張しないようにしている人が多い。老人ホームは共同住宅なので、入居者どうしで一旦感情的な対立が起こると、互いに居づらくなるからだ。
このため、こうした公共スペースの利用者はアメリカに比べるとかなり少なくなる。私が以前訪れたある高級老人ホームでは、バーカウンターが果物置き場になっていた。
シニアビジネス・コンサルティングでは、例えば「シニアを対象にした会員制サービスを立ち上げたが、さっぱり客が集まらない・・・」などシニア向け事業で遭遇しやすい経営課題の解決策を伝え、事業を成功に導きます。