スマートシニア・ビジネスレビュー 2008年6月24日 Vol. 118
アメリカ人の自宅の壁に必ず飾ってある家族写真
5月下旬から6月上旬にかけて多くの友人宅やリタイアメント・コミュニティを訪れる機会があった。
アメリカ人の自宅に招かれると、どの家でも目に付くものがある。 それは家族や自分たちの写真を壁に数多く飾ってあることだ。どこに行っても例外なく家族の写真がきれいな額に入れられて飾ってある。
60歳過ぎのある友人宅では、一人娘の結婚式の時の写真が壁一面に拡大されて飾ってあった。同時に、何十年前かの自分たちの結婚式の時の写真も綺麗な額に入れてちゃんと飾ってあった。
あるリタイアメント・コミュニティで招かれた家では、82歳の奥さんが60年以上前に旦那さんと出合った高校の卒業証書をそれぞれ額に入れていた。これには正直驚いたが、微笑ましくなった。
日本では友人宅に遊びに行っても、こうした写真を目にする機会は少ない。写真を多く飾れるほどの壁が少ないという理由以外に何か別の理由がある気がする。
昔の家には、亡くなった祖父母の写真が飾ってあった。日本の場合、家に写真で飾られるのは、故人が中心だったことを思い出した。
実はアメリカでは職場でも自分の家族の写真をよく飾っている。今回もある企業のオフィスを拝見する機会があったのだが、例外なく、自分の部屋に家族の写真をたくさん飾っていた。
なぜ、アメリカでは家族の写真を自宅や職場に飾るのか?
だいぶ前から知っていたのだが、改めて疑問を持った。なぜ、アメリカでは家族の写真をこんなにも自宅や職場に飾るのだろうか。
アメリカでは一般に大人になると両親と同居することが少ない。早ければ高校から親元を離れて暮らす。大学にでも入れば両親のいる自宅を離れて暮らすのが一般的だ。
いくつになっても親元を離れずパラサイトし続ける最近の日本の親子とは大きく異なる。こうした生活スタイルは、独立志向と個人主義が強いアメリカ人だから当然で、日本人とは異なるという意見もある。
しかし、よく観察していると実は一概にそうでもないようだ。
3年前に初孫が生まれた友人は、週末になると必ず車で30分の距離に住む娘夫妻の家に行き、夕食を共にして孫の世話を行っている。自家用車の後部座席にはチャイルドシートがあり、高級車の床は孫のおもちゃや子供用のお菓子が散らかっている。孫のいるおじいちゃんの、日本でもよく見る光景だ。自宅の部屋や壁にはこれでもか、というほど二人の孫の写真が飾ってあった。
前掲の82歳の女性は、東京に住んでいるという娘に電子メールで頻繁に連絡を取っているらしく、日本からの珍客?について、いろいろと事前にあれこれ尋ねていたようだった。
こうした観察からわかったのは、彼らは個人主義が強く、家族の絆が弱いから別居しているのではないということだ。
別居しているからこそ、家族への愛情が深まり、その愛情の深さの表れが壁の家族写真
独立志向が強いから、親とは別居する。しかし、別居しているからこそ、むしろ家族への愛情が深まり、その愛情の深さの表れが自宅の壁いっぱいの写真なのだ。アメリカに行くようになってかなりの年数が経過したが、遅まきながらこのことに気がついた。
農村社会から工業社会への進展とともに、日本もアメリカ同様、大家族から核家族へと家族の形態が変化した。だが、核家族における家族間の絆を強める「壁写真」という習慣を、我々は持たなかった。
アメリカの習慣が何でもよいとは思わないが、挨拶のときの「ハグ(互いに抱きしめあうこと)」とこの壁写真の習慣は素敵な習慣だと思う。帰国の途につきながら、自分も父母や兄姉、家族の写真を飾りたくなった。
ところが、そうした写真が手元にない。そういえば、全家族が一同にそろって写真をとるような機会が、最近なくなっていたことに気がついた。