加齢と脳の潜在能力との関係

解脱10月号 連載 スマート・エイジングのすすめ 第10回

解脱会_表紙_1001脳の潜在能力は年齢とともに発達していく

私たちの大脳には外側に灰白質という神経細胞の塊があります。灰白質はパソコンで言うとチップにあたり、計算処理をつかさどる部分です。それに対して大脳の内側には白質という神経線維の塊があります。白質は電気信号を伝達するケーブルネットワークです。

つまり私たちの脳は、外側に計算機が無数にあり、それらを内側のケーブルネットワークが繋いでいるという構造をしています。

さて、神経細胞の体積は、年齢とともに直線的に減っていきます。50歳、60歳から減るのではなく、20歳を過ぎると減っていきます。これに対して、神経線維の体積は、年齢とともに増えていき、だいたいピークが60歳代から70歳代になることがわかっています。

また、世界中の研究データを俯瞰すると、加齢とともに処理速度などの認知力は一般に低下するのですが、語彙などの知識の量は増えていくことが分かっています。いったい、これが何を意味するのでしょうか?

まだ科学的に証明されたわけではないのですが、神経線維が増えていくというのは、どうも私たちの直観力とか洞察力といった知恵の力に関係がありそうなのです。もっとやさしい言葉で言えば「年の功」。つまり、齢を取っていくと、計算したり、記憶したりするスピードは落ちますが、もっと高度な深い知恵の力は、年齢とともに増えていくのです。

ですから、多少記憶力が落ちたと思っても悲観することは全くありません。経営者に必要とされる能力、つまり難しいことを同時並行的、垂直統合的に瞬間的に判断する力はむしろ増しているのです。言い換えると、脳の潜在能力は年齢とともに発達していくのです。

中年期以降に訪れる「解放段階」とその理由

一方、アメリカのジョージ・ワシントン大学の心理学者コーエンが、45歳以降には4つの段階で心理的発達があると提唱しています。1番目は「再評価段階」と呼ばれ、通常は40歳代前半から50歳代後半に訪れます。2番目は「解放段階」と呼ばれ、通常は50歳代後半から70歳代前半に訪れます。

3番目は「まとめ段階」と呼ばれ、通常は60歳代後半から80歳代に訪れます。4番目は「アンコール段階」と呼ばれ、70歳代後半から人生の最期までに訪れます。

シニアの消費の観点から特に注目したいのは、2番目の「解放段階」です。ちょうど団塊世代とその下の年齢層は、現在この解放段階にあたる人が多くいます。この段階の行動の特徴として「いま、やるしかない」という気持ちが強くなる傾向があります。

たとえば、ずっとサラリーマンをしていた方が早期退職して沖縄でダイバーになったり、ずっとパートでレジ打ちをしていた主婦がダンスの講師になったり、といった一種の変身が起きやすくなるのが、この解放段階の特徴です。

なぜ、60歳代前後に解放段階が訪れるのでしょうか?理由の1つは、前述の通り、脳の潜在能力が発達し、新たな活動や役割に挑戦するエネルギーが湧きやすくなっていることです。

もう1つは、この時期には退職や子育て終了、親の介護の終了など自分自身や家族のライフステージが変わりやすいためです。これがきっかけで心理面の変化が起きやすくなるのです。つまり、「もう人生長くないのだから、自分のやりたいことをやろう」と。

すると「インナープッシュ」と呼ぶ自己解放を促す精神のエネルギーが起きやすくなると、コーエンは述べています。

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