解脱8月号 連載 スマート・エイジングのすすめ 第8回
シニアの消費を見る時に、個人による消費だけでなく、「家族の関係性」の変化による消費に目を向けることも重要です。変化の代表は、「近居」の増加。結婚した息子や娘の家族と「スープの冷めない」距離に居住する家族が増えています。
近居が登場した背景は、経済情勢の変化と社会の高齢化です。1990年代のバブル期には土地の高騰から2世代住宅が増えました。バブル崩壊後の1990年代後半に土地の値段が下がってくると、今度は子供世帯が独立に一戸建てを買えるようになりました。ところが別居はするものの、近居が増えていきました。
近居にはメリットが多くあります。同居しているとお互いにいろいろ気を遣ってストレスが溜まりますが、近居は基本的に別居なのでそれが減ります。一方で身体の衰えを感じる親世帯にとっては、子供が近くに住んでいるために、いざという時には世話をしてもらえる安心感があります。また、孫にもすぐに会え、交流もしやすくなります。
近居は子供世帯にもメリットが多くあります。まず、子育てを手伝ってもらえます。また、食費などの生活費の援助も受けられやすい。さらに、子供なしでちょっとどこかへ出かけたい時には親に子守を頼めます。
このように近居している家族どうしは、週末は全員で食事をしたり、記念日、誕生日などには全員揃って外食したりすることが多くなります。こうした近居で、あたかもかつての大家族のような行動をとる形態を、私は「近居大家族」と呼んでいます。この近居大家族特有の消費があることに注目しましょう。
たとえば、私は埼玉に住み、両親は新潟に住んでいます。私の息子(私の親から見れば孫)の誕生日には、通常両親からプレゼントが送られてきて、その後お祝いの電話があり、それで終わりです。
ところが、仮に私の両親が私の自宅近くに近居していれば、おそらく息子の誕生日には家族全員で誕生会を催すことでしょう。外食の機会も増えるでしょう。外食する場合は、一緒に移動するのに、2台のクルマで移動するのは面倒くさいので、7人乗りのミニバンなどに買い換える可能性も大きくなるでしょう。
また、近いところに住んでいるとはいえ、基本的には別居なので、「これからそっちに行くよ」「ちょっと子供を預かって」「今から留守番お願い」というように何か要件が発生すると、頻繁にやりとりするIT機器の需要も発生します。
このように親子孫三世代が近居すると、あたかも大家族のような消費行動が起きやすくなり、互いに遠く離れて別居している時よりも新たな需要が生まれやすくなります。こうした需要をうまくすくい取ると、新たなビジネスチャンスをつかむことができます。
携帯電話の割引サービス「家族割り」などは、近居大家族にぴったりでしょう。東京ディズニーリゾートの3世代割引、映画、コンサート、ディナーの3世代割引なども、このような近居大家族向きでしょう。
13年4月に祖父母から孫への教育資金の贈与が1500万円まで非課税になる制度が始まりました。14年4月現在で三菱UFJ信託銀行が約2万9千件、三井住友信託銀行は約2万件と想定を上回る契約数となりました。贈与額は大手信託銀行4行の合計で4300億円、契約数は6万5千件に達しました。
信託銀行業界は、当初は15年末までに5万4千件を見込んでいたのですが、わずか1年でそれを上回りました。これなども近居大家族型の商品と言えるでしょう。