高齢でも健康維持の秘訣

2021年9月24日 日経MJ連載 なるほどスマート・エイジング

スマート・エイジングの「4条件」を意図的に満たす生活スタイルが必要

私たち東北大学では、これまでの医学、心理学、社会学などの知見を統合して、スマート・エイジング実現のためには「運動」「認知」「栄養」「社会性」の4条件が満たされる必要があると結論づけている。

実際、これらの条件を満たす方は、70代~80代でも頭脳明晰で元気に活動的な生活を過ごしている場合が多い。

だが、現代社会は一般にこれら4条件を満たしにくい環境だ。例えば男性会社員が退職すると、他者との交流機会が激減する。外出目的が減ると自宅にいる時間が長くなり、運動不足になりがちだ。すると下半身が衰えて転倒・骨折のリスクが高くなる。

現代社会はアンチ・スマート・エイジングになりやすい環境のため、「4条件を意図的に満たす」生活スタイルが必要だ。

課題は高齢になるにつれ、自分の行動を変えることへの心理的障壁が高くなることだ。スマート・エイジングを促す商品にはこの点を十分考慮する必要がある。いくつかの秘訣をお話しする。

即時フィードバック

公文教育研究会「学習療法」では、高齢者が学習した直後に「100点満点!よくできました」とほめる。つまり、問題を解いたらすぐ答え合わせをする。これを即時フィードバックという。

自分が行った行為(学習を行う)に対して、正解なのか不正解なのか、結果を即時に与えることで、「正解であれば、うれしい気持ち」となり、「不正解であれば、くやしい気持ち」となるため、次の行動へのモチベーションが高まる効果がある。

ただし学習療法の場合、必ず100点満点をとるように教材選定を工夫している。たとえ認知症になっても100点満点がとれるという達成感を得てもらうためだ。

適切な目標設定

実現するかどうかはわからないが、実現したら嬉しい目標を設定し、達成するとモチベーションが上がることがわかっている。

フィットネスジム「カーブス」では利用者毎にいつまでに体重を何キロにする、ウエストを何センチ減らす、などの目標を具体的に設定し、利用者がそれを達成するための支援をしている。

利用者の今の能力より「やや高い水準」に目標設定するのがコツだ。目標達成のための行動が継続しやすくなるためだ。

カーブスでは、目標達成したら「どんな楽しいこと」をしたいのかも利用者に確認している。目標が義務的なノルマだと逆にストレスを感じてしまう。「達成したらうれしい」目標設定が重要だ。

同じ悩みを持つ人と交流

学習療法をシニア向けに行う「脳の健康教室」への参加者は、何らかの認知機能の衰えを体験した人が多い。このため学習の合間に参加者での会話が弾みやすい。似たような体験をもつ人同士は親近感が湧くからだ。

カーブスの利用者も何らかの体の不具合が理由で通い始める人が多い。運動によって不具合が解消した体験や達成感を共有できることも継続して通う理由になっている。同じ悩みを持つ人との交流は継続のための大きなモチベーションになる。