スマートシニア・ビジネスレビュー 2003年9月8日 Vol. 34
"Are you Profit or Non-Profit?"
日本語で直訳すれば
「あなたの会社は営利企業ですか、
それとも非営利企業ですか」
アメリカのNPOと会うときに必ず尋ねられ、
面食らうのがこの質問だ。
日本企業の場合、この質問を受けた時に、
どのように答えるか慎重にしたほうがよい。
その後のミーティングの進行に大きく影響を及ぼすためだ。
以前私はSCOREというNPOを訪れた時、
この質問に対するやりとりで30分以上を
費やさざるを得ない経験をした。
なぜか?
実は、この質問には
「営利企業のあなたに非営利企業の私たちが
ノウハウを教えることはできません」
という意味合いが込められているためだ。
同じ非営利企業には喜んで協力するが、
営利企業にはそう簡単に協力できないということだ。
アメリカのエイジング分野
あるいはシニアビジネスを語るときに
NPOの存在抜きには語れない。
しかし、日本語で「非営利企業」
あるいは「非営利組織」と訳される
この組織体の実態は、
日本語からイメージされるものと
かなり異なると思ったほうがよい。
アメリカのNPOの大半が、いわゆる
501(c)(3)と呼ばれる法律にしたがって
設立・登記されたものだ。
このアメリカの法人分類に従えば、
日本企業の場合、 たとえ
資本金300万円、従業員一人の有限会社で
大赤字を出していたとしても、
「プロフィット」 つまり営利企業とみなされる。
冒頭の質問に答えて、
面食らう最大の理由は、
その企業が「プロフィット」に
分類されることが、
株主の利益獲得が目的の企業と
みなされることにある。
もちろん、世の中には
株主利益の最大化を第一優先順位とする企業も
多く存在するのも事実である。
しかし、本来、利益とは、
その企業のミッション(使命)を達成するための
「道具」であって「目的」ではないはずだ。
アメリカの法人分類によって
「プロフィット」に分類されることで、
株主利益の最大化をミッションとする
企業としてみなされてしまう。
面食らうのはこの点だ。
以前シリコンバレーにあるAvenidas という
NPOのシニアセンター(日本の老人クラブと
公民館を足したようなところ)で、
財政担当の副社長にあった時、
彼が語った次の言葉が印象的だった。
「我々はプロフィットを出さなければ
(つまり、赤字になったら)終わりだ。
私はそのために、資金繰りからありとあらゆる
お金に関することを担当している」
ここでいうプロフィットは、もちろん「利益」のこと。
ちなみに、この副社長はハーバード大学を卒業後、
コロンビア大学でMBAをとってから、
このシニアセンターに「入社」した人。
日本で言えば老人クラブの運営会社に、
このような人材が存在すること自体に、
アメリカのNPOにおける人材の層の厚さを感じる。
そもそも企業を存続させるために
「利益」は絶対必要だ。
この点においては
営利企業も非営利企業も全く同じはずだ。
両者の違いは、その利益がいったい
「誰にとっての、どんな利益なのか」である。
アメリカでいう営利企業の場合の利益は、
顧客利益や従業員利益が挙げられる場合もあるが、
通常、株主利益のことを意味する。
これに対して、非営利企業の場合の利益は、
その企業のミッション・ステートメントに沿った
公共の利益を意味する。
営利企業との最大の違いは、
経営者に対する利益の
再配分をしてはいけないことだ。
したがって、ノン・プロフィットという代わりに
「パブリック・ベネフィット・コーポレーション
(公共利益のための企業)」という人もいる。
企業体の性質から言えば、
むしろこの呼び方のほうが実態に合っている。
こういうと、アメリカのNPOは、
日本で言うところの社団法人や特殊法人と
同じようなものと思う人もいるかもしれない。
しかし、これは大きな間違いだ。
アメリカのNPOには公開企業並みの
アカウンタビリティが要求される。
つまり、経営の透明性が厳格なのだ。
会計は全て公開され、
経営状況はボード・オブ・ディレクターズ
(NPOの経営メンバー以外で構成される理事会、
ただしNPOの社長は参加)で逐一チェックされる。
もともと公共の利益のためとして作られた
道路公団をはじめとする日本の特殊法人等が、
官僚の天下り先や一部業界団体の
利権確保に利用され、不透明な経営体質に
なっているのとは大きな違いだ。
そもそもアメリカのNPOは、
株主利益を第一とする営利企業では行い難く、
片や政府では対応しきれないが、
時代の変化とともに求められる分野において、
両者を補完するものとして発達してきた。
公共の利益であれば
本来政府が実行すべきものだが、
歴史的に大きな政府を避けてきた背景もあり、
営利企業、政府以外の
サード・パーティーの活動を後押ししてきた。
これがアメリカのNPOに税制面での
優遇措置が与えられている理由だ。
ちなみに日本の特定非営利法人法は、
一応アメリカをモデルに作られているが、
税制面での優遇措置が全くなく、
似て非なるものとなっている。
しかし、そもそも企業とは
営利か非営利かに関わらず、
それなりの規模に達したものは
「社会的公器」のはずだった。
私の尊敬する出光興産創業者の出光佐三は、
生前、常日頃
「出光は石油業を営んでいるのではない。
石油の販売を通じて国家社会に示唆を与えるのが
我々の使命なのだ」
と語っていた。
しかし、それがいつのまにか多くの企業が、
営利「だけ」を追い求める
「プロフィット・チェイシング・カンパニー」に
成り下がってしまったことに
今日の企業不祥事多発の原因がある。
日本の営利企業は、
いったい、何のために利益を上げるのか、
その会社は、利益の向こう側に
何を見つめているのか。
アメリカのNPOに冒頭の質問を受けたら、
そのことをはっきり言うことだ。
そうすれば、営利企業や非営利企業の枠を超えて、
共通の土俵に上れるはずだ。
一方、日本の非営利企業は、
利益を出すことに厳格でなければいけない。
なぜなら、その使命を達成することが、
NPO設立の根本理由であるならば、
その達成のために利益が不可欠だからだ。