スマートシニア・ビジネスレビュー 2003823 Vol. 33

犬とキャンプ場今年、行楽地に向かう高速道路のパーキング・エリアで見慣れないものを見つけた。

 

それは、「犬のオムツ専用」のゴミ箱だ。

ゴミ箱の表面には犬用とわかるイラストが書いてある。

中にはかなりの量の使用済みオムツが捨てられていた。

もちろん、犬のである。

 

一方、訪れたキャンプ場でも目に付いたのは

「犬同伴」の家族だった。

来場者のほぼ半分がそうだったように見える。

昨年も犬同伴の人はいたのだろうが、

明らかに今年はその数が多かった。

 

ここ数年、ペットブームであることはもちろん認識していた。

だが、実際にどの行楽地でも多くの犬同伴者を目の当たりにして、

今やペットが「擬似家族化」していることを実感した。

 

「家族」のような存在だから家に放っておけない。

だから数日以上の外出の際は、必ず同伴する。

 

したがって、これからは「ペット同伴可能」が

あらゆるサービスの標準となるだろう。

 

私の子供の頃、犬を飼うきっかけは、

捨て犬を拾った時か知り合いの犬が子犬を産んだ時だった。

そして、飼う場所は、家の外の犬小屋が基本。

また、えさは残りごはんに味噌汁をかけた、

いわゆる「犬飯」が定番だった。

 

一方、今はだいぶ様子が異なる。

犬を飼いたいと思ったらペットショップで買うのが基本だ。

そして、最大の違いは飼う場所が家の中だということ。

また、えさは栄養の種類毎に異なるドッグフードを購入して与える。

 

変わったのは飼い方だけではない。

犬の生活周辺のサービスも昔に比べ格段に増えた。

私の子供の頃は、田舎だったこともあり、

たとえばペットが病気になった時の医者探しが大変だった。

 

現在は専用の獣医も増え、ペットシッター、美容、洋服、

アクセサリーなど人間並みのサービスがそろっている。

最近はペットと住めるマンションも増えてきた。

ペット先進国アメリカでは「オージー・ペット・モバイル」という

自宅への出張美容サービスが成長している。

(拙著「月刊ビジネス・データ7月号 米国発NEXTビジネス」を参照)

 

家族の一員のような存在だから、必要な出費は惜しまない。

アメリカでは、全世帯の39%(4千万世帯)が犬を飼っており、

世帯当り年間460ドル(約5万7千5百円)を

ペットのために支出している。

ペット関連市場は300億ドル(約3兆7千5百億円)と巨大だ。

 

一方、日本ではこの種の数字があまり明らかでないが、

3年前にペット関連市場はおおむね1兆円程度といわれている。

よって、現在はもっと大きくなっている可能性が高い。

 

それにしても、なぜ、急激にペット保有者が増えているのか。

ストレスの多い現代社会では、企むことなく、

物言わぬペットの無邪気な仕草に癒される人が多いのだろう。

 

最近では子供の巣立ちや家族との別離をきっかけに

新たにペットを飼う人も増えている。

核家族化の進行が、家族の代替としてのペット保有を促している。

 

このようなペットブームの一方には影の部分もある。

飼い主の都合で捨てられ、保健所などで殺処分される犬猫が

全国で40万匹いる事実だ。

 

先日アメリカで、処分場で殺処分された後に扉を開けたら、

一匹の犬が生き残って出てくるという

本来「起こりえない」ことが起こった。

 

担当者は「身勝手な人間に対する無言の抗議」と受け取り、

その犬を処分するのをやめた。

 

テレビは「奇跡」が起こったとして大きく取り上げた。

その「奇跡」を知った700人を超える人から

里親の申し出があったという。

 

結果として、その犬は死の直前に命をとりとめ、

里親の下で生き延びられることになった。

このこと自体は喜ばしいことと思う。

 

しかし、このような「奇跡」が報道されなければ、

身寄りのない何十万匹のペットが

殺処分されている常態が注目されることはない。

交通事故で毎日何万人もの人が亡くなっていることが

ニュースにならないのと同じだ。

 

悲劇は毎日起きている。

それにも関わらず、悲劇が人に注目されるには、

「殺処分から生き残った奇跡」のような

「悲しい物語」が必要になっている。

 

自分の都合のよい時には「家族」として扱う反面、

都合が悪くなれば「廃品」として捨てていってしまう

現代人の身勝手さ。

 

そして、その身勝手さを知らしめるために

「悲しい物語」が必要なこと自体が、

実は現代の最大の悲劇なのかもしれない。

 

ロボットの開発者は、それを研究すればするほど、

人間に関する理解が必要になるという。

これと同様に、 ペットという擬似家族を通して見えてくるのは、

実は人間の家族のあり方だ。

 

ペットビジネスを考える人は、

このことを忘れてはいけないだろう。