保険外事業開発の知恵袋 東北大学スマート・エイジング・カレッジ東京

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第105回

介護保険外事業開発のための「事業支援カレッジ」

本紙の読者には介護保険外の新事業を探している事業者も多いと思う。そこで今回ご紹介したいのは、筆者が関わっている「東北大学スマート・エイジング・カレッジ(SAC)東京」だ。

SAC東京は、東北大学の健康寿命延伸・スマート・エイジング分野の精鋭教授陣が、企業からの受講生に対して、東北大学の研究シーズ情報を講義とディスカッションの形で提供し、企業の健康寿命延伸ビジネスを多様な角度から支援する「事業支援カレッジ」だ。参加すると大きく次の3つのメリットが得られる。

メリット1:健康寿命延伸に関する新たな事業展開へのヒントが得られる

SAC東京の活動の中心は月に一度の月例会。ここでは各分野の第一人者が最先端の研究動向等について講義する。例えば、脳機能イメージング研究の第一人者で、脳トレブームの立役者でもある川島隆太教授が「脳科学を応用して新産業を創出する」と題した講義を行う。
講義の中で超小型NIRSという最先端の脳活動計測装置を用いて、母と娘が台所で一緒に料理をしている時に互いがどれだけ「共感」しているかがリアルタイムで評価できる、といった話をする。

すると、鉄道会社の受講生から「最近、ゆったりと旅ができる観光列車を走らせたら、シニア客が大勢来るようになった。ここに何か新たな応用ができないか」と質問が出る。

それに対して川島教授から「それなら、電車に乗った人どうしの共感度を測って、互いの相性を知ることができる『シニア向けお見合い列車』を走らせたらどうか」という提案がなされ、研究シーズから事業アイデアに発展する。

このように月例会参加者は、講義とディスカッションを通じて、認知症予防に重要な脳科学の最先端情報と新たな事業ヒントを得ることができる。

メリット2:各分野の第一人者である精鋭教授陣との産学共同研究機会が得られる

月例会でのやり取りがきっかけで新たな産学共同研究に発展することもしばしばだ。例えば、最近「生涯健康脳」という著書が大ヒットし、注目を集めている加齢医学研究所の瀧靖之教授が、書名となっている「生涯健康脳の維持」という講義を行っている。

瀧教授は過去に16万人の脳画像を分析した経験から、認知症予防も含めた脳の健康維持には、睡眠、食生活、運動といった当たり前のことが重要であることを多くのエビデンスを示して話をする。

すると、受講生からは「運動の頻度や強度は脳にどのような影響を与えるのか」「脳の委縮を抑制するコミュニケーション手段としてSNSは有効か」「知的好奇心は持っているだけで良いのか」「睡眠の量と質はどう影響するのか」といった質問が次々と繰り出される。

こうした質疑応答を繰り返すことによって受講者全体の問題意識が高まり、自社事業との接点が見えて来ると産学連携へ発展しやすくなる。実際、この場合、旅行会社と「旅行が脳と認知力にどのような影響を与えるか」、住宅メーカーと「生涯健康住宅の研究」といった新たな共同研究を始めることになった。

メリット3:多くの異業種企業との協働機会が得られる

月例会のメニューの一つに「グループトーク」「グループ質疑」がある。様々な異業種企業からなる受講者を毎回7つのグループに分け、講義テーマに即して構成員で議論し、その内容を講師に投げかけるという活動だ。

各グループには「グループリーダー」が指定され、リーダーを中心に個別質疑では確認できなかった内容を議論する。受講生には、経営トップもいれば、現場の担当者もいて、それぞれの知識レベルや関心度も当然異なる。

にもかかわらず、グループトークを行うことで「様々な角度からの質疑が非常に活発に行われ、より深いところまでの理解の助けとなると共に他社の積極的な姿勢に大いに刺激を受けた」といった声が多くの受講生から聞かれる。

介護業界でも医療と介護との連携の重要性はよく言われるが、SAC東京ではさらに広範な異業種との知的交流機会が参加者の刺激になっているようだ。