不動産経済 連載 あなたの生き方を変えてしまう「親のこと」、知っていますか?第三回
不動産経済研究所が発行する「不動産経済」に連載第三回「あなたも遺産相続トラブルに巻き込まれる」が掲載されました。
遺産相続トラブルは、お金持ちだけの問題ではありません。財産がない人ほど争う傾向があり、なかには200万、300万円の相続で争うこともあります。親の死後、親族間のトラブル予防の面から遺言書は不可欠です。
「不動産経済」は、全国の不動産業界の経営者・管理職の方が読んでいる業界紙です。
老人ホームの情報収集を始めたら、次に重要なことは、親が「遺言書(いごんしょ、ゆいごんしょ)」の重要性を認識することです。その理由は、親が遺言書を遺すことで、親の死後の相続トラブルをある程度予防できるからです。
親が遺言書を遺すことの第一のメリットは、親の死後に遺産分割協議を行なう必要が少なくなり、相続人同士での揉めごとが起こりにくくなることです。
相続については、まず遺言書が優先します。遺言書は、その人が死ぬと同時に、身分上あるいは財産上の事柄について、法的効力を発生させようとする意思表示だからです。ところが遺言書がないと、民法の定める「法定相続分」で相続することになります。そして、遺産はいったん、相続人の「共同所有」となります。しかし、そのままでは各相続人単独の所有財産とはなりません。相続人が遺産を相続しても、それをいつまでも共有状態にしておくと、財産の管理・利用・処分のうえでさまざまな障害が生じます。
そこでこの共有状態を解消し、相続財産ごとにその取得者を決めるのが、「遺産分割」です。基本的には相続人同士が全員で話し合って、誰がどの財産をもらっていくかを決めることになっています。この話し合いを「遺産分割協議」と言います。
「遺産分割協議」が揉めるきっかけになる
このように、遺言書がないと残された親族間での「遺産分割協議書」の作成が必要となります。また、遺言書があっても遺産分割方法についての指定がない場合は遺産分割協議が必要です。しかし、これが揉めるきっかけになるのです。遺産分割協議書には「法定相続人」全員分の実印と印鑑登録証明書が必要です。このため、作成する遺産分割協議書には法定相続人全員が合意する必要があります。
ところが、これがなかなか容易ではありません。特に、相続人同士の家族関係が複雑だと大変です。これまでほとんど顔を合わせたことのないような親族が突然現れてきたうえ、そうした人々と意見がぶつかり、協議が難航し、時間がかかります。
遺産が全部現金、銀行預金、株式などの分割可能なものであれば、相続人の相続分に応じて分割することができます。しかし、現実には遺産が現金や分割可能なものだけというような場合はまれです。ほとんどの場合、遺産は土地であったり、家であったり、自動車であったり、時計であったり、千差万別です。相続分の数字どおりにきれいに都合よく分けられるようになっていません。これが、親が不動産以外に大した財産を持っていない場合に、揉めやすくなる理由です。
遺言書は残された親族への負担を減らす
親が遺言書を遺すことの第二のメリットは、相続手続きをなるべく簡単にし、残された親族への負担を少なくできることです。
遺産分割協議が終わると、それをもとに、残された親族によって亡くなった親が取引していた金融機関の口座やクレジットカードの解約・名義変更、不動産の相続登記をする必要があります。この作業だけでもやっかいなのですが、相続人の数が多くなると手続きはさらに煩雑になります。
相続手続きをするのにさまざまな書類が必要です。それは、①死亡した親の出生からすべての戸籍謄本と除籍謄本、②相続人全員の戸籍謄本・住民票・印鑑証明書、③不動産の登記簿謄本・評価証明書などです。こうやって書き出すと簡単なように見えますが、実際にはこれらを揃えるためには多くの手間と時間がかかります。
相続人は、役所や金融機関に何度も足を運ばなければなりません。また、遺産分割協議を目的にした他の相続人との打ち合わせのために多くの時間を取られます。
会社勤めをしている人は有給休暇を取ったり、休日をそのために費やしたりする必要があります。このため、遺産分割協議が長引くと、かなりの肉体的・精神的負担を負うことになります。また、移動のための宿泊交通費や連絡・調整のための通信費もばかになりません。一方、弁護士などの専門家にこうした作業を依頼すれば、自分の作業は減りますが、それなりの費用負担が発生します。
以上のメリットにより、残された家族や親族、大切な人に、相続などの死後の作業で大変な思いをさせないために、遺言書は不可欠なのです。
遺言とは単独の意思表示の行為である
遺言は民法で規定される法律行為のうちの「単独行為」(単独の意思表示を要素とする行為)です。つまり、遺言書を作成するのが親の場合、あくまで「親単独」で行なう法律行為なのです。このため、子供が親に遺言書作成を働きかけたり、強制したりすることによって、親が遺言書を作成するというのは遺言書の趣旨に合いません。
その一方で、遺言書がないために親の死後に相続トラブルが発生した場合、迷惑するのは残された子供などの相続人です。しかし、親の遺言書は、親単独の意思表示であり、子供の意思を反映させる趣旨のものではないのです。
したがって、これらを踏まえると、親が遺言書の重要性を認識し、「自らの意思で」死後の相続トラブルが起こりにくい内容の遺言書を遺すことが望まれるのです。
参考文献:親が70歳を過ぎたら読む本